7人が本棚に入れています
本棚に追加
「あのっ!違うんです!私が勝手に追いかけて、、、だから、もともとは私が悪くて!。だから、先生は悪くないんです!!」
そう言って、懸命に弁解する響。
俺も急な響の発言に驚く。
浅葱の話を聞いていて心苦しくなったんだろう。
俺もそろそろ解放されたいと思っていたところだ。
もういいだろう。
俺たちは間違った選択をしてきたわけじゃない。
俺が何を言われようと構わないが、彼女を巻き込むなら、話は別だ。
響に諭すように俺は言う。
「別におまえが悪いとかじゃねぇだろ。俺も悪い事をしたつもりはないし。誰が悪いとかじゃねえよ。まぁ、浅葱の言いたいこともわかるし、もっともなんだろうけど。」
「そーだろ!?」
そう言った俺に同意を求める浅葱。
だが、それ以上に大切なことがある。
浅葱に向かって、俺は伝える。
「立場関係なく、お互い好きになっちまったんだから、仕方ねぇだろ。ただそれだけの話だ。教師失格だと言われればそれまでだけど、
俺は別に後悔してないし、これからも、こいつと一緒にいる覚悟でいるからな。おまえなら、俺の事もよくわかってるし、俺らの事を理解してくれると見越して彼女を紹介したんだけど。おまえに、そこまで言われるとは、正直残念だよ。」
ここまで言えば、これ以上俺たちにつっかかって来ることは無いだろう。
案の定、浅葱は黙り込んだ。
「わかったよ。耕作、おまえ、本気だってことだな?。」
「そうだよ。本気だよ。」
浅葱の目を見てしっかり伝える。
「結婚も考えてるんだよな?」
浅葱が結婚という言葉を口に出す。
隣で響が顔を赤らめているのがわかった。
「ああ。考えてるよ。まあ、今すぐじゃねぇけどな。」
この先もずっと響と一緒にいたいと思う。
その気持ちに嘘はない。
「そうか、、、わかった。」
俺の本気が伝わったようで、渋々納得する浅葱。
「おまえ、響に謝れよ。彼女の前で、散々な事言ったんだぞ。」
ふうっとタバコの煙を吐き出して俺は言う。
浅葱はバツが悪そうな顔をして、
響の方を向いて、両手を合わせて頭を下げた。
「響ちゃん、、、だっけ?。ごめんね!無神経なこと言っちゃって、ほんとごめん!!ただ、驚いたんだよ!。まさか、耕作が、、、って。響ちゃんを傷つけるつもりはほんとに無かったんだ!ゴメン!。」
「いいんです!!全然!!気にしないでください!」
響も必死に首を横に振っている。
やれやれ、、、。
やっと納得したか。
「じゃあ、俺飲むわ!」
空いたビールに手を伸ばす浅葱に、好きにしろと言う。
「そうか、耕作も結婚まで考える彼女ができたのか、、、。」
独り言のように、ぶつぶつ言いながらビールを飲む浅葱。
「良かったってことだよな!。そうだよな!めでたいってことだよな!」
自分に言い聞かせるように、浅葱はそう言ってグビグビとビールを口に運ぶ。
その姿を見て、響と顔を見合わせ、ふっと笑ってしまう。
響の顔にも笑顔が戻っていた。
「そーだよ。良かったってことだよ。」
そう思っていてくれればいい。
浅葱は変に真面目で、融通がきかない。
真っ直ぐで、ブレがない。
昔から浅葱はそういう奴だ。
だから、俺も本音でぶつかれる。
昔から浅葱は何1つ変わらないな。
ずっと紹介しろと急かされていたんだ。
とりあえず、役目は終わったか、、、と肩の荷が降りた気分でいると、浅葱は、唐突に響の顔を見て、問いかけた。
「でも、なんでこいつなの?」
「は?」
俺が先に聞き返してしまう。
「だって、耕作だよ?こいつと付き合ってて楽しい?苦労してんじゃない??」
「なんだそれ。どういう意味だよ。」
浅葱の言葉にイラ立ちを隠せない。
苦労って何だよ。
「おまえが1人の女と2年も付き合ってるのが信じられないんだよ!。2年だぞ!?」
浅葱はビールを片手に、身を乗り出し俺に食らいつく。
「楽しいです。」
苦笑いを浮かべながら、そう答える響。
「おまえ、ひどくないか?俺のこと何だと思ってんだよ。」
「だって、響ちゃんの年頃なら、もっと他に若くてかっこいい奴山ほどいるだろ。だから、なんで耕作なのかと思って!」
まぁ、確かに浅葱の言うことも一理あるが。
「こいつ、女の子に優しくないじゃん。絶対俺の方が優しいのに!なんで耕作ばっかモテるんだよ!。」
「なんだそれ。だいたいにして、モテてねぇし。」
浅葱の話を聞いていると、ただのひがみじゃねえかと言いたくなる。
「優しいです。すごく、、、。」
響が小さな声で答える。
「嘘だろー?耕作だよー??。本当に優しいのー??辛いことあったら、俺に言っていいからね!!」
ビールを飲んで上機嫌の浅葱は、饒舌になっていて、かなり厄介だ。
「本当に、優しいです!」
酔っ払い相手に、真面目に答える響。
「へぇー。おまえ惚れられてんなぁ!!いーなあ!!」
浅葱はそう言って、俺の顔を見て悔しそうな表情をする。
やれやれ、、、。
そろそろこいつの話でも聞いてやるか。
色々話したいことがありそうだ。
「で?おまえは?さっき合コンだったんだろ?」
俺がそう聞くと、浅葱はよく聞いてくれたと、勢いづいて語り出す。
「そーなんだよ!聞いてくれよ!!俺の話!」
詳しく話を聞くと、二次会に行くつもりで店まで予約していたが、一次会では全く盛り上がらず、相手に速攻で帰られたという結末だった。
「もういい加減、やめたらどーだ?」
話を聞いていると、そんな気がしてならない。
同じような話を聞くのはこれで何度目だ?
「俺だって彼女欲しいんだよ!」
浅葱はいつも真剣だ。
だが、いつも空回りしている。
浅葱の話をクスクスと笑って聞いている響。
まぁ、確かにこんな楽しいネタはなかなか無いかもな。
ビールの缶を1人で二本開けたところで、浅葱が響の顔を見て、唐突に話しかける。
「響ちゃん!!」
「、、、はい!」
「誰か紹介してくれないかな??彼氏欲しい子誰かいない??」
いつものが始まった。
まさか、それを響に聞くとは。
俺も呆れて何も言えない。
「え!?!?」
突然話を振られて、響も驚いている。
「友達とかさぁ!!。誰かいないかなぁ??」
浅葱の押しも強い。
「、、、おまえ、こいつの友達っつったら、未成年だぞ。さっき未成年はダメだの、何だのって散々言ってただろ。」
何を言い出すのかと思えば、、、。
「そーだよなぁ。未成年はやっぱりまずいよなぁ。」
自分で言っておきながら、頭を抱える浅葱。
本当にこいつは、、、。
「じゃあ、ハタチ過ぎの友達とかいない?」
浅葱も懲りなく、響に聞いていて。
「おまえ、もういい加減にしろよ。」
浅葱を止めようとした時だった。
「あ、1人いるかも!」
響が浅葱の悪ノリに乗っかってしまったのだ。
おいおい、、、。
「おい、おまえも。酔っ払いの戯言に付き合わなくていーぞ。どーせ、明日には覚えてねぇんだからよ。」
「でも、1人、バイトの先輩で、彼氏募集中の人いるよ?」
響が真剣な顔で俺に言う。
響の話を聞いて、浅葱も身を乗り出した。
「え!マジで!?!?。今度紹介してよ!」
目を輝かせながら、響に誘う。
「めんどくせぇから、やめないか?そーゆーの。」
俺は全く乗り気がしない。
紹介したところで、めんどくさい事になるのは目に見えているからだ。
面倒な事に巻き込まれるのはごめんだ。
「頼むよー!!」と、響にせがんでいる浅葱の姿を見ていると、情けなくも思う。
28の男が、何やってんだか、、、。
そんなに彼女が欲しいのか?
まあ、浅葱はいい奴だし、見た目も悪くないと思う。
だが、女には縁がなく、いいところまで行っても結局振られてしまう。
そんな話を今まで散々聞かされてきた。
原因は、きっと、この女々しさなんだろうが。
「面倒だから、俺はパス。」
「えー、でも、浅葱先生、彼女欲しいって言ってるし!。協力できることがあるなら、してあげようよ!」
何故か浅葱を応援する響。
「そんなの自分で探せばいーだろ。」
人の手を借りても、結局最後は自分自身の問題だ。
そう言うと、浅葱からの猛攻撃が始まる。
「おまえ、ほんとに冷たいな!!響ちゃん、超いい子なのに!!おまえ、俺の事もう少し真剣に考えてくれてもいーじゃん!!。おまえ、自分が幸せだったら、それでいーのか!?。親友が幸せになるのを協力してくれないわけ!?」
あぁ、めんどくさい。
響の一言が、余計だった。
まぁ、響の性格からしたら、浅葱の事を放っておけなかったんだろうが。
それはわかるんだが。
「その子いくつ??」
「2つ上なんで21か22だと思います。」
「何してる子?あ、バイトしてるのか!」
「同じ書店でバイトしてます。大学で獣医学科、将来獣医師になりたいって言ってる先輩で。」
「大学生かぁ、、、。社会人が良かったんだけど、この際、そんな事も言ってられないか!」
「あと2年学校あるって言ってました。」
「あと2年かあ。その子かわいい??」
「私はかわいいと思うけど、どーなんだろう。」
2人で会話が進んでいく。
俺は置いてけぼりだ。
浅葱の顔は嬉しそうだが、腑に落ちない。
「おまえ、もう、やめとけよ。」
浅葱を止めに入るが、全く耳に入っていない様子で、響の話に食い入っている。
響が言ってる先輩ってのは、たぶん、よく会話によく出てくる同じバイトの仲間の1人だ。
顔は見たことがないが、響はかわいいといつも言っている、たぶんそのバイト仲間の事だ。
きっと、その彼女の事を紹介しようとしているんだろう。
俺は知らねえからな、、、。
心の中で呟く。
浅葱の幸せまで、面倒みきれねぇよ。
最初のコメントを投稿しよう!