親友

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「疲れたぁ!」 そう言って彼女は、助手席へと乗り込む。 「お疲れさん」 バイトが終わった彼女を迎えに行く週末。 車の中で、今日あった出来事を表情豊かに話す彼女。 響も短大2年になり、19歳の夏を、バイトに勉学にと勤しんでいる。 もう少しで20歳の誕生日を迎える彼女。 月日は穏やかに流れていた。 俺も年を重ねたが、隣に座る彼女は、一つ一つ大人への階段を登っているようで。 まだまだ子供っぽい所も残しながら、少しずつ大人へと近づいていく彼女。 はっとさせられる事も最近多くなってきている。 でも、まぁ、こうやって過ぎていく日々も悪くない。 日に日に、彼女が俺に近づいてくるのを感じている。 怒った顔も、落ち込んだ顔も、笑顔も、俺への無垢な愛情も、全てを受け入れる。 その覚悟は今も昔も変わらずにある。 これから先もそれは変わらないだろうという確信もある。 響と付き合って2年が過ぎた。 今まで、これほど、1人の女と長い年月を共にしたことはない。 自分でも信じられないくらいだ。 全てが愛おしい。 彼女と過ごしてきた時間。 その全てが愛おしく感じている。 「今日はどーすんだ?」 最近は、バイト終わりの週末は泊まりに来ることも多くなってきている。 家には、彼女の私物が徐々に増えつつある。 「泊まりに行ってもいい?」 少し顔を赤らめて、助手席に座る彼女は言う。 「いいけど。今日は何て言ってきたんだ?」 「さくらちゃんとちいちゃんの家に泊まりにいくって言ってきた。ダメ、、、かな?」 上目遣いで、そう聞いてくる彼女に、ダメだと言えるほど、俺は人間は出来ていない。 一緒にいたいという気持ちがいつも勝ってしまう。 俺も1人の男だ。 「いいよ。」 そう答えると、嬉しそうな顔をする。 俺も弱いな。 そろそろ彼女の親に挨拶に行かなきゃならないんだろうが。 なかなか、その一歩を踏み出せないでいる。 泊まりに来ることが増えていて、きっと響の親も何か勘付いているはずだ。 さすがに毎週千草や、短大の友達を理由にしているわけにもいかない。 そろそろなんだろう、、。 そうは思いつつも、なかなか前に進めない自分がいる。 以前なら、彼女の親に挨拶に行くことは、特別な事じゃないと思っていた。 大したことじゃないと。 挨拶に行ってもいいと昔、響に言ったこともある。 けれど、いざ卒業して、一緒に過ごす時間が増えるうちに、俺は足踏みをするようになった。 彼女と一生を共に過ごす。 その想いが強くなるにつれて、現実味をおびてくるたび、臆病な自分が顔を出すようになった。 自分の意思だけではどうにもならない。 彼女との付き合いを認めてくれるのだろうか。 教師という立場だった自分を受け入れてもらえるほど、世間は甘くはない。 教師だった自分が彼女を受け入れた事に、罪悪感さえ感じ始めている。 大したことじゃないと何故思えていたのか。 彼女の親に全てを打ち明けること、受け入れてもらうこと、それは決して簡単な事ではないんだ。 いつかは、ちゃんと向き合わなければならない問題だ。 いつまでも、先延ばしにしている訳にはいかない。 そう思いつつも、車は職員住宅へと向かって走り出している。 「俺もまだまだだな。」 「ん?」 「なんでもない。」 俺の独り言を気にせず、バイトの話を夢中でする彼女。 「甘いもの買って行ってもいい?なんか、甘いもの食べたくなっちゃった!」 こういうところは子供っぽくて、笑ってしまう。 「いいよ。コンビニ寄るわ。」 心地いい車内。 早く家彼女とゆっくりしたい。 急かす気持ちが、アクセルを踏む足と連動していた。
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