旅の行方

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 私は、何も答えなかった。黙って改札を抜けていく自分を、駅員はさっきと同じようにずっと目で追っていた。  走り過ぎてゆく電車の窓の外の風景は、薄青いような闇に包まれ始めていた。  乗客はまばらだ。  視線の先に、東京のまばゆい点々とした街の明かりが見えている。  私はカバンからスマホを取り出すと、電源を入れた。見ると誠一からの着信履歴やラインが十件以上も並んでいた。  その中には、巌邑堂の刈谷さんからのものも、いくつか混ざっている。  私はスマホをもう一度カバンの中にしまいこむと、力を抜いて椅子の背に深くもたれた。顔を向けると、窓ガラスに写りこんでいる、疲れ切った自分と目が合った。  ラッシュ時のたくさんの乗客に取り巻かれ、長椅子の一番隅に小さく座っていた私の耳に、日本橋、日本橋、というアナウンスが聞こえてきた。  私は立ち上がると、人々の波に混じって押し出されるように電車を降りた。  ホームの柱のかたわらに寄ると、足を止めた。   改札の向こう側で、二人の人物が駅員や警察官に囲まれ、何か話をしているのが目に入った。  一人は、刈谷ゆう子、そしてもう一人は誠一だった。  そのとき改札のあたりの人の固まりが、その場に立ち尽くしている私の方に、一斉に顔を向けた。 「……ああっ。谷口さん!!」  刈谷さんが、そう叫ぶように言った。 「あゆみ!!」  誠一も、大声を上げた。  私は、彼らに向かって小さく手を振った。  ……ただいま。  その瞬間、私の頭の中で、何かが弾け飛んだ。  そのまま私は、足元の床に倒れ込んだ。すぐそばにいた女性の、悲鳴のようなものが聞こえている。  何人かの人が、私の方に駆け寄ってくるのがわかった。意識がだんだんだんだん遠のいていく。  その後のことは、まったく何も覚えていない。
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