第四章 これで恋の障害は、ナシですか?

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「洋子さん、海斗」 「待たせたね、凪子。話は終わったよ」 洋子さんが私の頬にそっと掌を置いて数回優しく上下させた。 「彼なら凪子のことを任せられる。──癪だけど認めるよ」 「! 本当ですか、洋子さん」 「わたしの愛しい凪子を諦めるのはすっごく辛いけどね。それでもやっぱり凪子が幸せになるなら……幸せになるために彼が必要ならわたしは潔く諦めるよ。だけどこれだけは覚えていて。わたしは七海の次にあんたを愛する女だってことを」 「……はい」 洋子さんにギュッと抱きつかれ素直にその胸に顔を埋めた。 (……ん? 今、なんか……) 洋子さんに抱かれながらも先刻洋子さんが告げた言葉の中に若干の違和感を覚えた。 それが何だったのか、その時はその違和感が徐々に頭の中の奥底に沈んで行くことになった。 洋子さんと別れ、海斗の車で家まで送ってもらっていた。 その車内で思い切って海斗に訊いた。 「ねぇ、洋子さんと何を話したの?」 「んー……特には何も」 「は?」 そっけない海斗の言葉にモヤッとした。 「何よそれ。私にはいえないことを洋子さんと話したの?」 「いや、いえないことっていうか、本当に何もこれといって話さなかったんだ」 「……どういうこと?」 「凪子が部屋を出てからしばらく俺の顔をジッと見ていてさ、数分経ってからなんか知らないけど俺の事を話せっていきなり言って来て」 「は?」 「生い立ちっていうのかな……小さい時の話をしろっていわれて話し出したらすぐに『もういい』って言ってまた黙り込んで──それで終わり」 「何……それ」 「解らないだろう? 俺にもさっぱりだ」 「……」 「それで部屋から出る時に小さい声で『あの子を幸せにしなさい』っていわれた」 「……そう」 洋子さんの海斗に対する言動が一体どういうものだったのか、私には解らないことだった。
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