第四章 これで恋の障害は、ナシですか?

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だけどとりあえず洋子さんは海斗とのことを認めてくれて、洋子さん自身も私を恋愛感情抜きでこれからも付き合ってくれるということでここ数週間悩まされていた悩みは全てが解決したのだった。 ──だけどしばらくして 「あっ!」 「っ、な、なんだよ、いきなり大声出して」 車窓から流れる夜景を見ていて突然思い出した。 「ごめん! だけど……あれ、なんでだろう」 「何が」 「うん……なんで洋子さん、私のお母さんの名前、知っていたんだろうと思って」 「は?」 そう。先刻少し気になった違和感はそれだった。 「私、洋子さんにはお母さんは亡くなったって話はしていたけれど、名前までは教えていなかったと思って」 「それが?」 「先刻洋子さんが『わたしは七海の次に』っていってて……それ、なんだかおかしいなと思ったの」 「それは……美容院に勤める時に出した履歴書か何かの書類に名前が書いてあって知っていたんじゃないのか?」 「ううん。私、何処にもお母さんの名前は書かなかった。単に家族欄にお父さんの名前だけを書いて、その流れで母は私が小学生の時に亡くなりましたって話しただけで……」 「……」 「それなのにどうして洋子さん、お母さんが七海だって知っていたんだろう……」 「どういうことだろうな」 「……不思議」 「ん?」 「不思議、だけど……ま、いいか」 それは私にとってはとても不思議なことだったけれど、何故か洋子さんに訊いてみようという気にはならなかった。 本当に不思議なのだけれど、訊いてはいけない、知ってはいけないという気持ちが私の中に強くあって (洋子さんは何処か謎めいていて、不思議な存在であればいい) そんな風に思える存在だと思ったのだった。
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