公共の場でイチャイチャするカップルをじっと見る妖精 デバガメコフ

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公共の場でイチャイチャするカップルをじっと見る妖精 デバガメコフ

2b9e52c7-e359-4276-ade3-ccc9cef5f277  その日も遠足だというのに団体行動の苦手な洋一郎之介は一人、遅れて電車に乗りました。 「なんで目的地が分かってるのに仲良く一緒に行かなきゃなんないんだよ! 金魚のフンになんかなりたくないねっ!」  イライラしていた洋一郎之介は電車のドアに寄りかかって中吊り広告のグラビアアイドルを見つめていました。  その時、車内であるにもかかわらず、気持ち悪いくらいイチャイチャしているカップルが目に入りました。見てはいけない、そう思いながらも思春期の洋一郎之介には刺激が強すぎたようです。  コソコソと、中吊り広告や窓の外を見る振りをしながらイチャつくカップルを覗き見てドキドキしていました。  すると、イチャイチャしているカップルのちょうど間からモワーっと霞みがかってきました。 「え? 何? ま……まさか……」  その霞に乗っているかのように、小さな小さな老人が現れたのです。その老人はイチャつくカップルをじっくりと舐めるように見ていました。  鼻の下を伸ばし、横目を装っていても強い視線を感じるほど卑しく眺め回していたのです。あまりの気持ちの悪さに洋一郎之介は思わず叫んでしまいました。 「ギャアッ! よ……よ……妖怪!!」  洋一郎之介の叫び声にイチャつくカップルの男の方がギロリと睨んできました。女の方は相変わらず……といった感じでしたが。 「誰が妖怪だ! この小僧!!」 「ち……ちがうよぉ! ほら、彼女の肩に……。わぁぁ……気持ち悪~~~!!」  その小さな老人は、まだ彼女の肩の上辺りから彼女を覗き込んでいました。  しかし、彼女の方は洋一郎之介の混乱した言動にイラついたのでしょう。彼女が彼氏に何か耳打ちすると、洋一郎之介は次の駅で彼氏に無理やり降ろされてしまいました。  投げ出されてホームに引っくり返ってしまった洋一郎之介は、悔し涙を流しました。 「ちくしょう……。俺のせいじゃないのに……。閻魔帳に付けといてやるっ!」  洋一郎之介がデイパックの中からお得意の閻魔帳を取り出した時、視線の先に小さな爺さんを発見しました。さっきの妖怪?です。小さな爺さんも洋一郎之介と同じく、しょんぼりとした顔をしていました。 「あんた……。いったい……何なの? 妖怪? 妖精?」  ジジイは小さく呟きました。 「デバガメコフ……。妖精……」 「何で一緒に降りちゃったの?」 「カップル……オコル……イチャ……ナイ……」  ジジイは原始的な言葉使いをしました。あまりにも落ち込んでいるジジイを見ていると、なんだかこっちまで切ない気持ちになってきました。 「デバガメコフ……。いつか……。いつか俺がとびっきりキレイな女の子とイチャイチャしてみせるから、その時にまた俺の元へおいでよ……」  洋一郎之介がそう言うと、ジジイは花が開いたように見事に微笑みました。とてもキレイとは言い難い笑顔でしたが、何だかホッとさせてくれるスマイルでした。  そして、ジジイの下方からまた霞が広がり、やがてジジイは完全に見えなくなりました。霞が消えると、もうデバガメコフの姿はありませんでした。 「デバガメコフ……。絶対、また俺の元に来てね……」  洋一郎之介が目の端に浮かべた涙を拭って前を見ると、ちょうどホームに電車が入ってきました。その時、車内に乗っていたカップルの肩から小さなジジイを見つけました。洋一郎之介は嬉しくなって、一生懸命手を振りました。  デバガメコフは見事な微笑みで洋一郎之介を見た後、カップルの彼女を舐め回すように見ていました。その姿は真剣そのもので、洋一郎之介は気がつくと合掌していました。  このように、デバガメコフは公共の場でイチャつくカップルの元に現れる妖精です。あなたが見つけたカップルの間からも、きっとデバガメコフが見ているはずです。感覚を研ぎ澄ませ、凝視してみましょう。デバガメコフが見えるか、カップルに殴られるかは、神のみぞ知ることです。
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