コトノハ

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コトノハ

 ひび割れた鳴き声をあげて、巨大なカエル型モンスターは肉塊となった。口を半分以上切り裂かれた状態で断末魔の叫びを上げられるあたり、恐ろしいというか奇っ怪なモンスターである。まあ、倒すことができたからいいのだけれど。  はあ、とため息をついてアシュリーは長剣を拭って血と落とし、鞘に収めた。一撃必殺が決まって本当に良かったと思う。何がなんでも、後衛の相棒の手は借りたくなかったのだ。――魔法剣士と呼ばれる戦闘タイプのアシュリーが前衛、純粋な魔道師タイプであり魔法だけで攻撃と回復をこなすのが後衛の彼。アシュリーは意地でも、彼の攻撃魔法が出る前にカタをつけたかったのである。 「随分な気合だな」  彼――ジョシュアはにこりともせずに言った。 「ただ少々乱暴な突撃だったように思うが。ビッグフロッグは、長い舌を伸ばして攻撃してくるモンスター。舌には鋭い針がいくつもついていて接近戦を挑むよりも魔法で挑んだ方が安全である……なんてことは、教科書にも書いてある基礎の基礎だったと思うが?」  淡々と説教じみたことを言いながら、モンスターの舌が掠った時に出来たアシュリーの肩の傷を回復させてくる。ひりひりとした痛みは一瞬にしてなくなった。せいぜい服の破れが少し目立つかな、と言った程度である。悔しいことだが、単純な魔法の技術で言うのなら自分よりもジョシュアの方が遥かに上だった。下級魔法でも大きな威力が出せる上に、とにかく発動が早いのである。  そう、だからこそ自分は――彼のことが気に食わないのだが。 「うるさいですね。そんなこと言われなくてもわかってますよ。でも私の魔法は貴方ほど速くないんで。剣で突進した方が簡単だと思っただけです。現にカスリ傷で済んだじゃないですか」 「逆だろう。カスリ傷でも傷は傷だ」 「さっさと退治したかっただけですよ、そんなに責められることですか!?」 「……お前な。何をそんなに怒ってるんだ、さっきから」  さすがに、ジョシュアが困惑したような声をだした。殆ど表情の変わらない鉄面皮、笑うことも怒ることもまず見たことのない彼だが――案外声の方は、表情よりも想いを語ってくれるらしい。 「確かに、お前が俺のことを前々から嫌いだったのは知っている。俺もお前のことは好きじゃない。それなのに、お俺達二人がセットで魔王退治の勇者に選ばれてしまった、不満なのはわかる。お互い様だ。でもな。……出発する前は、そこまでイライラしていなかっただろう」  彼の言うことは、一応正論ではあった。貴族階級で優等生のアシュリーと、下層階級でありみんなから“魔王の色だ”と忌み嫌われてきた黒髪黒目の美少年ジョシュア。相性が良いはずなどなかった。実際アシュリーは、協調性がなくいつも暗い顔で教室の片隅にいるようなジョシュアのことは非常に苦手に思っていたのだから。  そしてジョシュアの方も。裕福な家庭で育った――自分で言うのもなんだが、みんなの人気者であるお嬢様と組まされるなど、腹立たしいことこの上なかったことだろう。それなのに、魔法学校の先生達は自分とジョシュアを勇者として指名してきたのである。歴代では一人しか選ばれないハズの勇者を、例外的に二人にした上――究極的に相性の悪いコンビであったにも関わらず。
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