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「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
唸るような断末魔と共に、倒れていくパープルベアの巨体。
それを黙って見守ると、ジョシュアはひとつ息を吐いて――そのままどさり、と膝をついた。槍は再び、血の雫に戻る。彼は肩も、腕も、腹も、足も、全身が血まみれだった。毒などなくても、出血多量で死んでおかしくない有様だ。
「な、何してるんですかジョシュア!は、早く治さないと……!」
「見た目ほど酷くない。おい」
「!」
ジョシュアは座り込みながら、泣きじゃくっている少女をそっと呼び寄せた。え、と戸惑いながら近づく女の子。よく見れば、彼女の膝はすりむいて血を流している。
「悪かったな、突き飛ばして。もうモンスターは倒した、心配いらない。もう此処に来るな、次は助けてやれないぞ」
彼は相変わらず無感動に言い放つと、少女の膝の傷に手を当てた。集まってくる光。みるみるうちに治る彼女の傷。少女はあっけに取られてジョシュアを見ている。恐らく――半分以上、アシュリーと同じ理由でだ。
「ジョシュア、その子の傷を治すのもいいですけど、貴方の方が遥かに重傷でしょう!さっさと治さないと死にますよ!!」
「ガミガミ煩いな。見た目ほど酷くないと言っているだろう」
「どこが!?」
若干血を吐いているということは、明らかに内臓に傷が及んでいる。というか、切り裂かれた腹部からそれらしいものが見えているのを誤魔化せていると思わないで欲しい。
ジョシュアは解毒の魔法と回復の魔法を唱えると、自分の傷を治していく。相変わらず素晴らしい技術だ。確かに己の回復魔法に自信があるのなら、多少無茶をしてもなんとかなると思うのもわからないことではなかった。
でも。
「……私、貴方のことはとても苦手でしたよ、前々から」
これは、はっきり言っておかねばなるまい。少女を抱き寄せながら、アシュリーはジョシュアを睨む。
「それでも、嫌いじゃなかったんです。今日までは」
「意外だな、とっくに嫌われていると思っていたが」
「嫌う理由なんかないでしょう。だって貴方は、ただ一人でいるのが好きだっただけで、生まれつき黒い髪黒い目で産まれたというだけではないですか」
そうだ、とアシュリーは思う。ジョシュアは確かに皆に疎まれていたが、その理由の大半は本人のせいではないものだ。一人でいるのが好きな人間なら他にもいる。暗い顔で読書をしていたってそれは誰かに迷惑をかけるようなことではない。
何より、黒髪黒目がこの国の宗教上で悪魔の子だと言われているからといって――それは本人のせいでもなんでもないのだ。アシュリー自身が無宗教だからこそ言えることかもしれないけれど。そんな彼を苦手に思う理由はあっても、嫌う理由なんて本来どこにもないはずなのである。
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