6.それぞれの想い

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6.それぞれの想い

The Brilliant Futureは既存曲をコピーして演奏することが多かったけれども、一応何曲かはオリジナルソングもあって、それは主に奏輔と大樹が作っていた。 奏輔は、貰ったデビュー曲のデモ音源を最初に聴いたときの衝撃を忘れられない。 全身が総毛立つような、圧倒的な音の力。 こんな曲を聴いてしまったら、もう二度と作曲なんてできないのではないか、と思わざるを得ないような。 しかし、その曲を作ったオリブルの仕掛人でもあるセージは、次からは自分たちで作曲しろ、と言っているらしい。 編曲やアレンジはしてくれるらしいが。 そのことについて、大樹がどう思っているのかはわからないけれども、奏輔はすごくプレッシャーを感じて悩んでいた。 そうこうしているうちに、スタジオでの練習やら音合わせやらは回数を重ねて、夏休みに突入しようとしていた。 新規メンバーが急に増えたせいもあるだろうけれど、なんとなくメンバーの間もぎくしゃくしている気がする。 音がちっともまとまらないのだ。 せっかくのすごいイイ曲なのに。 それまでピンで歌っていたボーカルの二人がなかなか合わせられないのはもちろん、悩める気持ちが音に出てしまうのか、奏輔も足を引っ張るようなミスばかりしてしまう。 保も何かに苛立ったようなリズムを刻んでいるし、そういうメンバーの不協和音を焦れったく思うのか、いつも冷静な大樹までもどこか調子を狂わせている。 「困ったねぇ…」 さすがに担当の長峰も困り果てているようだ。 「明日はレコーディングだってのに」 もちろん、レコーディングは全体がまとまっていなくても、それぞれの音を後から調整することも可能だから、なんとかなるだろう。 でも。 そのレコーディングに、セージそのひとが来るのだ。 あのすごい曲を、こんな演奏しかできないことに、失望されて見放されてしまうのではないか。 「ソースケ、ちょっと」 何度めかの演奏を中断して、大樹が彼を呼ぶ。 どこがどう悪かったのかは、自分でももちろんわかっている。 肩を落として大樹のところへ行くと、彼は珍しく少し照れくさそうな顔をして、ポンポンと奏輔の背中を軽く叩いた。 「萎縮すんな、ソースケ。確かにスゲェ曲だけど、お前のいつもの音なら、この曲もっとかっこよくできる」 みんなお前のベースを頼りにしてんだよ。 そして彼は、不機嫌極まりない顔でつっ立っている晶も呼ぶ。 「アキラ」 「んだよ…」 返事こそ苛ついた声だったものの、晶は素直に大樹と奏輔のほうへ歩み寄った。 ここ数回の練習で、名目こそリーダーは絢流だけれども、その実このバンドを引っ張っているのは大樹だと彼も認めたのだ。 大樹はいつも冷静で、バンド全体を客観的に見ている。 「言っとくけど、合わねぇのは俺のせいじゃねえよ?あっちがなんか知らねえけどオドオドしてっから」 つーか、お前ら、あんなボーカルでよくデビューとかこぎ着けられたな? ギターもベースもいいのに、勿体無い。 「アヤはメンタルが歌に直結するんだ」 大樹は淡々と言った。 そして、さすがの彼も少し言いにくそうに歯切れ悪く続ける。 「あんた…じゃなくて、アキラ、少し、その…アヤを誉めてやってくんねぇか?」 「はあ?誉め要素とかどこにもないだろ?おだてなきゃ歌えねえとか、使えなすぎだろ」 眉間に深い皺を寄せてそう言い返す晶だけでなく、横で聞いていた奏輔も、大樹は何を言い出すのか、と驚いた。 しかし、大樹は重ねて言う。 「あんたもわかってるんだろ、アキラ」 何を? 奏輔のハテナは、すぐに答えが与えられた。 チッと舌打ちした晶が、肩を竦めて言ったからだ。 「あのおキレイなお嬢ちゃんが、俺に惚れてるってことなんか、誰が見てもわかるだろ」 はい? アヤがアキラに、ほ、惚れて…る?! 惚れてるって、その男女間に発生する恋愛的な? え…? アヤも、ホモなん? 待て、アヤ「も」って、だからつまりタモツもアヤに惚れてるわけで… さ、三角関係?!全員男で?? 「わかってんなら、頼む。あんたがちょっと誉めてやってくれれば、たぶんアヤは今とは全然違う、本来のアヤの良さが出るから」 大樹に諭されるように説得され、晶はため息を吐く。 「俺にホストの真似事なんかさせるんだ、アイツがそれでも使いモンになんなかったら、奴をクビにして俺がソロでボーカルやるからな?」 そう言い捨てて、彼は絢流の隣に戻って行った。 「ダイ…」 奏輔は、大樹を見る。 たぶん、捨て犬みたいな情けない顔になっていただろう。 「わかったか、ソースケ?気づいてないの、お前だけだと思って」 みんなの息が合わないのは、お前のせいじゃないから。 原因は、アヤだ。 「お前は何も気にしないで、自分の音を奏でろ」 再び、大樹の手が背中をポンと叩いた。 そして、まるで奏輔の不安と焦りを読んでいるかのように、力強く言ってくれる。 「俺たち(・・・)なら、できる」
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