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「アオイ、隣いい?」
晶は、オズオズとそう声をかけた。
The Brilliant Futureのメンバーと、アオイと長峰、他のスタッフたちで、打ち上げにきた焼き肉屋さんの貸切パーティールームだ。
「もちろん。何遠慮してんだよ、晶のくせに」
アオイは屈託なく笑って、身体を少しずらして、隣に晶が座るスペースを作ってくれた。
「スゲェ久しぶりだよな?おっきくなって~、お兄ちゃんは嬉しいよ?」
クシャクシャと頭を撫でられて、晶はクイッとその手を頭で払いのける。
「ざけんな、いつまでも子ども扱いすんなっての」
顎を上げてツンツンしている晶は、飼い主と認めた相手にしか心を開かない気位の高いドーベルマンみたいだな、とアオイは思う。
でも、飼い主にまでそういう態度はどうかと思うけど?
だから。
「うん、今日の晶はかっこいいなあ、と思ったよ…俺もウカウカしてらんねぇってちょっと焦るぐらいにはさ」
そう誉めてあげると、口をへの字に曲げて、奇妙な表情をした。
素直に嬉しそうな顔をできないところが、まだまだ子ども扱いの似合うカワイイ年下の従兄弟の範疇を超えられないところなんだけど。
アオイは思わずニヤニヤしてしまう。
そうすることで、余計に馬鹿にされてると思って晶が拗ねるのは、もちろん承知の上だ。
案の定、晶はブスッと膨れっ面になった。
「ぜってぇ本気でそんなん思ってねぇダロ、クソッ」
この年の離れた従兄弟が、ずっと自分をそういう意味で慕っているのはわかっている。
でも、まだまだ「男」として見るには子ども過ぎる、かな?
彼の持つポテンシャルは、こんなもんではないはずだ。
これからもっと、歌い手としても男としても、アオイが意識することのできる相手になっていくはず。
「さあ?どーだろね…晶はもう二十歳になってたよな?なんかアルコール飲む?」
「飲む」
「あの可愛かった晶と酒を呑めるようになるなんて、いや、もうお兄ちゃんとゆーより、お父さんの心境だわぁ」
晶は中学生の頃、ものすごく荒れていた時期があって、当時アメリカに住んでいたアオイとセージの家にホームステイさせられていたことがある。
日本の画一的な学校制度が合わないのかもしれない、と悩んだ父親が兄、つまりアオイたちの父親に相談して、そうなったのだ。
だから、従兄弟というよりは兄弟に近い感覚なのは仕方ないにしても。
「こんな軽い父親持った覚えないから」
「まあ、そーだな、こんなおっきい息子、俺いくつのときに産ませたのよってなるしねー」
それ、オリブルの大スキャンダルだわー。
アオイは、晶がつっかかってくるのなんて、軽々と躱してしまう。
ちょうど、頼んだ生ビールが運ばれてきたので、軽くジョッキを合わせて微笑んだ。
「なかなかイイ男に成長しつつある晶に、乾杯」
晶は、小さくため息を吐いた。
なんていうのか、こういうところだ。
本当にこのひとにはまだまだ敵わない。
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