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2.王禅寺保
高校に入学して、初めてそのひとを見た瞬間、自分はホモだったのか、と愕然とした。
恋に落ちる、というのを、身をもって体験したからだ。
いや、他の男を見て欲情なんてしないし、中学のときは普通に女子と付き合って、女の身体に反応しないなんてこともなく、ちゃんと童貞は捨てていた。
ホモだから、というわけではなく、そのひとだけが特別なのだ。
そう思う頃には、自分がホモかどうかなんてどーでもよくなるぐらいに、もうそのひとに夢中になっていた。
そのひとは、耳に残る甘い声で、佐々木絢流と自己紹介をしていた。
スラリとした細身。
薄茶の髪は襟足が長めで柔らかそうだ。
全体的に色素が薄いのか、髪と同様、薄茶色の瞳は、煙るような長い睫毛に守られている。
カッコイイというよりは、綺麗、という表現がピタリとはまる整った顔立ち。
綺麗なひとは名前も綺麗なんだな、と思った。
友達でいいから、仲良くなりたい。
だから、絢流がバンドを組みたがっている、と知ったときは舞い上がった。
保は、青春を同じように音楽に逆上せた父親の影響で、彼が昔使っていたというドラムを譲り受けて、趣味で叩いていたからだ。
それからはもう、絢流に必要とされたい、絢流の側にいたい、絢流に見放されたくない、その一心でひたすらにドラムを練習した。
だから、デビューできるかもしれない、となったときは物凄く興奮した。
デビューして、売れることができたなら。
進学や就職で離れることなく、これからも一生側にいられる。
歌う絢流の後ろで、ずっとずっとドラムを叩いていられる。
そんな夢みたいな話が現実になるかもしれないなんて、最高すぎる。
ギターの大樹がデビューはしたくないとごねて、散々すったもんだしたけれども、ようやく落ち着いて、四人で東京に出てきた。
これで、夢への道が拓けた、そう思ったのに。
そいつは、突然現れたのだ。
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