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父親に啖呵を切ってしまった手前、もうやるしかないのはわかっていたけれども。
それでも、まだ高校生だというその四人を見て、晶はウンザリする。
思っていた以上にお子様だ。
世の中のことなんて何にも知らなそうな、デビューという言葉に浮かれきってるような、頭の軽そうな奴ら。
強いて言うなら、ギターの栗橋とかいう奴だけは、少しは頭を使っていそうな感じはしたけれども。
あんな奴らで、本当にオリブルを超えるなんてできるのか。
晶は、自室のベッドの上に倒れ込んで、今日貰ったばかりの音源を聴こうとイヤホンを耳に突っ込んだ。
一音めから、やられた!と思うほど強烈なスタート。
晶は、その曲に震えが走るほど全感覚を持っていかれる。
さすがセージだ。
最後まで聴き終えて、彼は耳からイヤホンをむしりとった。
エンドレスで聴いていたいほどいい曲だ。
今すぐ歌いたい。
自然にそう思える。
だけど。
あんなお子様バンドに、この最高の曲がちゃんと演奏できるのか?と思ったらイラついて聴いていられなくなったのだ。
オリブルに、アオイに歌わせたら完璧なのに。
彼は、ノロノロとベッドから起き上がる。
高校を卒業してからはほとんど使っていない勉強机の引出しを開けた。
そこから、そっとしまわれていた一枚の写真を取り出す。
憧れの男が、屈託ない笑顔でそこに写っていた。
現在よりもずっと若い頃の写真だ。
この写真の彼は、今の晶ぐらいの歳だったかもしれない。
その背中を追いかけて追いかけて、だけど全然追いつくどころか、その後ろ姿さえもう見えなくなってしまったひと。
追いついて、追い越して、そうしたら、この想いを全部ぶちまけて、一人の男として認識して貰おうと思っているのに、距離は開く一方だ。
あのお子様バンドで、本当にオリブルを超えることができるだろうか。
いや、超えてみせないと。
これが、最後のチャンスなのだから。
晶は、写真を引出しにしまった。
そして、再びベッドに横になり、イヤホンを耳に突っ込む。
全身を痺れさせる心地いい音楽の渦に身を委ねながら、ふと思う。
そう言えば、あの栗橋とかいうギターの奴、まるでセージのことを見知っているような口ぶりだった。
まさかセージが自分から正体を明かすはずはない。
直接のスカウトには事務所の人間とアオイが行ったって聞いてるし。
どういう知り合いなんだろうか。
どこまで知っているんだろうか?
鷹城青磁がオリブルの楽曲を手がけているセージだってことはまさか知ってねぇよな?
そのひとがオリブルのカリスマボーカル、アオイの双子の兄だってことは知ってるのか?
そして、セージとアオイが事務所の社長の甥で、晶の従兄弟だということは?
というか、セージが全面的にThe Brilliant Futureのプロデュースをするってことは、レコーディングやら打ち合わせやらで当然彼らの前に姿を見せるってことだよな?
あのお子様バンドに、どこまで真実を教えるんだろうか。
あいつら、口も頭も軽そうだけど、大丈夫なのか?
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