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勘解由小路邸戦線の終結
「ああ。ガイアっつってたおばさんだな。お前がやったのか?」
ガイアは、息を吐いた。
「女の子だけど、降魔にそっくりすぎよ。直さないと今後苦労するわよ」
「心配痛み入るが問題はない。もう婿はここにいる。そうだろう影山」
応えられるか。こんな話。
「それでどうした?何の用だ一体。何をした?」
「ちょっと周囲の時間を凍結したのよ。碧さん、お父さんが、降魔が見つかったわ。今お母さんといるの。降魔の魂の大半が見つかった」
「それで?パパは私達を覚えているのか?魂を僕に分割されて哀れな蒐集物になったか」
ガイアは首を振った。
「降魔はどこまでも非常識な男よ。今ちょっと降魔らしさを見せたの。失われてはいないかもしれない。ねえお嬢ちゃん、ちょっと泣いてみせて。女の涙が降魔の失われた記憶を取り戻すのよ」
ふーむ。碧は考えた末に言った。
「それは構わんが、かかる現状を考えるとだな。すまんが、この周囲に沸いている脅威を全て排除して、家の安全を守ってくれ。神なら容易かろう」
影山さんは、お嬢様を冷たい目で見つめていた。
別に何とかなるのだろうが、それ以上に楽チンを求めようとしていた。
面倒を神に押し付けるのか。この幼女は。
ガイアは平然としていた。まるで、ご相伴に預かったので洗い物しましょうか。というように気楽に請け負った。
「嫌な父娘ね。解ったわ。これでいい?」
ガイアが指を鳴らすと、無数にいた全ての敵が、こちらの飛びかかった爬虫類さえも、全てが消え去った。
「ふむ。これで沖縄は平和な海に戻った。それで、奥でのうのうとしていた牛島がいるはずだ。ついでに片付けてくれ」
「牛島。降魔はどういう教育をしてるのか」
肩をすくめてガイアは消えた。
「神が動いてんだ。楽勝だな」
碧は、もう勝利を確信していた。
影山さんは、深い溜息を吐いた。
ハインリッヒ・ヒムラーは、禍女の皇に見出された僕の一人だった。
地獄に落とされた後も、ヒムラーは己が愛した国家の敗北の理由を追い求めていた。
何が悪かったのか。
戦術レベルで連合国に劣っているとは思えなかった。
戦略において敗北したのか。数に押されたのか、我々は。
地獄で思わぬ人物との邂逅があった。その人物は、島国の指揮官であったが、アメリカの沖縄上陸に際し、無辜の島民を起用し、ゲリラ戦術を行おうとした愚物だった。
当時は一笑に付したが、こうして妖魅を指揮するにあたり、不要な下らない命を有効活用することを思い出した。
かつての同盟国が行なったカミカゼを剽窃することを思いついたのだった。
勝利を疑わなかった。所詮損耗するのは劣等妖魅のみだったからだ。
上空に浮かび、戦列を観戦しながら、腹に入れていたTNTの起爆スイッチを押すだけで勝利がもたらされるのだ。
全く素晴らしい。マインフューラー東雲ヤコ様。我等闇の勢力を暁の燦然なる勝利の沃野に導きたまえ!
小賢しい敵首魁の喉元に爆弾入りの妖魅が飛び込んだ瞬間、目の前に女が現れ、兵達は全て消滅していた。
「確かにヒムラーだったみたいね。沖縄海戦の悪夢を日本で再現しようとした。貴方はお終いよ。子供の頃、無邪気な心でアンネの日記を読んだ。貴方達ゲシュタポへの怒りが湧いた。消えなさい。禍女の皇だっけ?彼女が名付けた名前は知らないけど」
「は?!ちょ?!ジークハイ」
皆まで言わせず、ヒムラーは消滅した。
ハインリッヒ・ヒムラー。ヤコが名付けた名前は、そのまんま日村さんといった。
何故、ドイツ第三帝国が敗北したのか解った気がした。
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