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酒場に併設された宿の部屋で、莉里はまだメソメソ泣いていた。
パパ怖いのよさ。あんなパパ嫌なのよさ。
血走った目で迫る父親に、莉里は心から怯えていたのだった。
誰かがベッドに上がり、莉里を優しく抱きしめたのが解った。
「ママなのよさ?」
「違うわよ。莉里ちゃん」
「あーー」
「気にしなくていいのよ。まだ人だった頃よくあったわ。まだアカデミーが出来て間がない頃、入学したての小さい子が、よく一人で泣いていたもの。こうして朝まで抱いてあげたのよ」
「ぐす。その子はどうなったのよさ?」
「もうとっくにお婆ちゃんになっちゃったわ。250年前のことだもの。でも、その子は立派な魔法使いになった」
「ガイアお婆ちゃん、おっぱい凄い大っきいのよさ。ママより上の人は想定の範囲外なのよさ。でも、あったかくていい匂いがするのよさ」
「おっぱいなんて降魔そっくり。ああ莉里ちゃん、降魔が自分を取り戻したわよ。莉里ちゃんに酷いことしたって、謝りたいそうよ」
莉里は、弾かれたように身を起こし、次いで滂沱の涙を流した。
「よ、よ、良かったのよさ!やっぱりパパは普通じゃないのよさ!三つ子の妹にパパが取られちゃうのよさ!許せんのよさ!ママ嬉しそうなのよさ?」
「ええそうよ。今頃二人っきりで仲良くしているでしょうね」
「あああああああああああ!!雄しべと雌しべは認められないのよさ!でもそうすると三つ子出来ないのよさ!どうすればいいのよさ?!」
ああ。確かにこの娘は普通ではない。この子がいう以上、三つ子の誕生はいずれ間違いなく起こる。
それは、今現在かかる全ての脅威が一掃され、勘解由小路達に勝利がもたらされたことを意味する。
それは、ニュクスの討伐すら成し遂げられたということでもある。
この子が感情のままに口にしたことは現実に起こり得る。細君は正しいというの?
ヘルに会わなければ。ガイアはそう考えていた。
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