地獄の下層にて

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異を唱えたのは細だった。 「ずっとそうだったは言い過ぎではないか?私は情人を虐げたことはないぞ。心躍る晩年だったと自負している。ああそこの君、酒をもらえまいか?ところで綺麗な手をしているね。私は今日泊まる場所がないのだが、ベッドを一部分け与えてはくれないだろうか?何もしないことは私の名誉にかけて誓おう」 勘解由小路細の名誉は今失墜していた。 うっきゃああああああああ!莉里の雄叫びで全員が莉里に傾注した。 危険かと腰を浮かせた真琴の視線の先には、興奮が最高潮を迎えた莉里がマイク代わりにスプーンを口に当てていた。 「一曲歌うのよさ!ラブリーラブリーぷいきゃーリプライズ2.2!ぷ!い!きゃー!ぷ!い!きゃー!」 悪魔達のぷいきゃーコールに支えられて、いざ歌おうとした時、急に割って入ったピアノのクレイジーなシンコペーションを用いたフリージャズめいた演奏があった。 キース・ティペットもかくやというアバンギャルドな即興の、グイグイと前に出てくる鍵盤の奏でる音の奔流に、莉里は圧倒されて言葉を失い、演奏者を見て開いた口が塞がらなくなった。 幼女からお株を奪う大人気ないプレイをしていたのは、何と自由になった左手を駆使しているのは、二十歳を少し過ぎた勘解由小路降魔だった。 「シャックス様の最大の手下!勘解由小路さんだ!」 「やっぱり凄えやこのピアノの腕は!」 悪魔達が騒いでいた。 「そうか。シャックスか。あいつならそうだろうな。表立った破壊をしない男だ。分断された降魔の魂は、今あいつのお抱え音楽家になっているようだな」 やっぱり出鱈目だった。死んでしまった真琴の最愛の夫は、あっさりと姿を現していた。それも、健常な肉体を有し充実した生活をしているようで、演奏が終わると同時に群がってきた女悪魔達のおっぱいをワシワシしながら、ガハハと笑っていた。 かつての恋人だった女は、長い時を経た再会のあまりのしょうもなさに、呆れて溜息を吐いたのが聞こえた。 真琴は、群がる女達全員を睨みたい衝動に駆られていた。
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