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天上天下唯我独尊が、島原に迫ろうとしていた。
島原は渾身の力で、レーザーポインターを四郎時貞に指向し、雷撃を撃ち放った。
極大化した稲妻は、四郎時貞まで届かなかった。
「無駄ですよ。我が唯我独尊の力の前では。あなたが強ければ強いほど、その力は弱まっていく。それが唯我独尊です。この空間内では私が最高の存在となる。ご覚悟を」
声は突然現れた。
「へーえ。まるでショボい高校球児が子供の草野球チームで強権振るうみたいね。弱いものイジメの能力ってショボ。ホントにザコい」
「き、君は何だ?ここは危険だ。すぐに退避、いや、逃げなさい」
「杓子定規だけど優しいおじさんね。マホちゃんもカホちゃんも今は安全よ。安心して」
そう言って、クリステラは、島原を庇うように立った。
弱いものを守る。勇者の娘のようだった。
「無数の死体の中に一つ増えるだけのこと。幼子諸共地獄に落ちよ」
「ふーん。使い魔召喚」
呼び出されたのは、体長2センチほどの一匹のカナブンだった。その無害な虫は、四郎時貞の顔に向かって飛び、弾けた。
「爆弾コガネ。体内で爆発部質を生成する。けどちっちゃいからネコとかは怯える。それで、この空間内で一番弱い生き物の攻撃を受けて、どう?生きてる?強弱の逆転があんたの能力なら、一番弱い生き物の攻撃受けたらどうなるの?つまり、力関係の完全に逆転した最弱の生物の最強攻撃を受けろ」
天草四郎時貞は、カナブンの爆発で、木っ端微塵に吹っ飛んでいた。2センチのカナブンとは思えない爆発は、跡形もなく四郎時貞を消し去っていた。
「君は?」
「おじさんよりかは少し頭の柔らかいただの王女よ。こういう裏ワザはパパから盗んでる。異世界から助けに来たのよ。約束された滅びは来ない」
「そう。そういうことなのね」
現れた声にクリステラは反応した。
「異世界王女ね。可愛いヤコ様の敵は許さないわ。動かないでね」
ウァレリア・メッサリナ。毒島さんと呼ばれた恐るべき悪女は、カノンを抱いて言った。
回復魔法で傷の癒えた島原は、赤ん坊を人質に取った女を睨みつけていた。
「誰だ?お前は?ウァレリア・メッサリナくらいしか思いつかんが」
「そうよ色男。天使さんと清原さんはこの子に殺された。ヤコ様の僕として、貴女を殺す必要があるのよ。動かないでね。さもないとこの可愛い赤ちゃんが死ぬわよ」
「脅しではあるまい。この女は骨の髄まで色欲と流血を好んだ歴史に名高い悪女だ。赤ん坊を殺すなど訳はない」
「悪い女の人だ。ねえカノンちゃん。その人悪いオバちゃんなんだって!どうする?あーーー。凄い気が天井知らずで」
え?ウァレリアは赤ん坊を見た。
「ガウ。とう」
ウァレリアは、強力な気の一撃を顔面に受け、胸から上が消滅し、落ちたカノンを、クリステラがキャッチした。
「悪いモンスターやっつけちゃったね。うっきゃあカノンちゃん。大好きよ」
「うぷー。ママ」
何やらよく解らない内に、警察庁祓魔課は完全に守られていた。
幼児と赤ん坊に滅ぼされたのだ。最悪の敵の攻勢は。
島原は、何とも不条理を感じていた。
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