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戦場の只中で
警察庁祓魔課長、島原雪次は、生き残った職員の避難が済んで安堵の息を漏らしていた。
多くの者が殺された。あの老人に。
島原も知悉していた。あの狂った目は、あの冴えない相貌は、間違いなくアルバート・フィッシュだった。
フィッシュは、多くの銃弾に晒されながらも、恍惚の表情を浮かべていた。
島原は確かに、フィッシュを雷撃で貫いた。即死したと思われたフィッシュは、全身を黒く変え、鎧のような外皮には、全身に生え揃った無数の突起に覆われた異様な姿になると同時に、フィッシュを銃撃していた準級祓魔官と自衛隊員が、悲鳴上げてバタバタと倒れていった。
島原も全身に痛みが走ったのだが、何故か生きていた。
即座に理解した。あのフィッシュの全身に刺さった針のような棘は、影響下にある全ての人間に、無差別に己が痛みを振りまいていたのだと。
全身に銃弾を打ち込まれる苦痛をダイレクトに送り込まれて、多くの者はショック死に至っていたのだった。
島原は何かに守られたのを感じていた。
確かに全身に強烈な痛みが走り、それは電気信号のように体内を走り、心臓に至ろうとしたところで、ギリギリで吸収されていた。ショックアブソーバーのように。
しかし、自身の身に起きた奇跡にすがる暇はなかった。島原は勘解由小路から齎された情報をもとに既に確立していた退却ルートを利用して、殆どの祓魔課職員を脱出させた。
多くの自衛隊員と、古巣から出向していた準級祓魔官は、命をかけて彼等を守ったのだった。
勘解由小路の言葉通り、もう誰も死なせはしない。
島原は、かろうじて残された祓魔課庁舎の堅牢な防護体制が何とか整ったという無線連絡を受け、庁舎を仰ぎ見た。
ここが都内霊的防衛の最後の砦だ。
しかし、庁舎の上の空は、都内全域は、今も暗闇の覆われていた。
今この瞬間にも、禍女の皇の僕達が、都民を無差別に襲っている。
都内は今、救いようのない戦場になっているのだった。
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