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地獄の下層にて
警察庁祓魔課の沈降 ディバイデッドソウル編
そこは、夜の暗闇に満ちていた。
およそ陽光というものは存在していなかった。勘解由小路真琴は、不安そうに握った愛娘の手を強く握り返していた。
ああ。生きている。娘も自分も。生きたまま地獄の下層に存在していた。
もっと、目を覆いたくなるような地獄の風景があろうと思っていたのだが、意外なほどそこは静かだった。歴史あるヨーロッパの城壁に囲まれた町の中のような。
ちょうど、鬼火をランタンに入れた二頭立ての馬車が、目の前を通り過ぎていった。
「ママ。ここが地獄なのよさ?拍子抜けするくらい平和でかえって驚きなのよさ」
真琴と共に地獄に引き込まれた勘解由小路降魔の祖父、勘解由小路細は娘の莉里にこう告げた。
「ここは地獄の実力者の領地内だ。だが油断はしてはいけないよ莉里。薄氷一枚の下はどこまで残虐な、流血の地獄であるのは間違いない。容易に転落するだろう。実力者の意のままになる世界なのだから」
「何か、ママとひいじいちゃんが揃うと違和感凄すぎるのよさ。両方モノクルつけてて馴染まないのよさ」
「モノクルに関していうならば、私がオリジナルだ。降魔の僕が私のモノクルを邪眼除けにしたのだからね。思い出すものだ。私の情人は私のモノクル姿がお気に入りでね。よく朝まで愛を分かち合ったものさ。そう言えば私は忘れていないよ。美しい情人と母娘。私は親子丼も有りだと思っている」
異世界アースツーの神ガイアは、細を見て心底ウンザリして言った。
「枯れ木みたいなお爺ちゃんが獣みたいで心底うざったかったわ。朝までがっつかれて、今なら言うけど本当に嫌だったわ。今更貴方と寝るのはごめんよ」
「莉里ちゃんに手を出せば即邪眼で凝視します。貴方は私の降魔さんの祖父にすぎません」
「やれやれだな。若さを取り戻したというのに、つれないのだからな。さて、ここは誰の支配域かは不明だが、酒場があった。入ってみようではないか。降魔の分断された魂の情報が入るかもしれんぞ」
細は肩を竦めて酒場に入っていった。
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