5人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
鬼哭啾々覚醒
銀正男は、今目覚めた。少しウトウトしていたようだ。
正男の胸には、可愛らしい裸の娘が幸せそうに顔をくっつけて寝息を立てていた。
ああそうだ。俺は恐らく死ぬことになる。
あの時、勘解由小路は湖畔でそう言ったのだった。
言葉を失った正男に、勘解由小路は平然としてこれを預けていったのだった。
傾世元禳と六魂幡だった。
二つの宝貝を託された正男は、居ても立っても居られず、東京を目指した。
正男が入ってしばらくして、突然夜がやってきたのだった。東京から出られなくなったと同時に、町中に爬虫類が蔓延り、都民を無差別に殺傷し始めたのだった。
さながら東京は地獄と同義になった。祓魔課に電話したがそもそも不通になっていた。
正男は、被害者から霊災に立ち向かう男として存在する羽目になった。
人化オーガが人界に融和しているのが思わぬ僥倖となった。
意外に多かったのだ。彼等は。
特に東京閻羅会の組員は、果敢に爬虫類に立ち向かっていった。
その激しい戦列に、混元傘を握った正男は加わることになった。
激しい戦闘を続け、人々を守りながら、正男は渋谷区勘解由小路邸を目指した。
およそ喧嘩とは縁がない正男は、自分の中の戦闘力の高さに驚くことになった。強い腕力と高い回復力は、驚くべき早さで正男を一端の戦士に鍛え上げていった。
子供の頃遊びに行った勘解由小路邸に着いた時、屋敷の背後を突かれて、アルビノのメイドは爬虫類に囲まれつつあった。
彼女が防御に張った氷の壁が砕かれ、尻餅をつくところを背後から支えた正男は、彼女が冴えない中年男に支えられて息を飲んだのが解った。
正男は必死に戦い、何とかメイドを助けることに成功していた。
「ああ。疲れた」
正直座り込みそうになっていたが、ギリギリ踏みとどまったのは、自分よりも若者しかいなかったからだった。
「鬼哭じゃねえか。思わぬ援軍が来たって訳だ」
「お前。ギター練習してんのか?レガートがまだ荒かったぞ夏フェスは。ライルっつったっけ?」
「ああうるせえ。いいんだよ俺は。師匠はいねえぞ。気軽に遊びに来ていい状況じゃねえんだよ」
「それだ。勘解由小路に何があった?」
知りたいのはその一点だった。幼馴染とも言える不快な男は無事か?現れたのは、勘解由小路の娘の碧だった。
「私が応えるわ。パパに何があったのか」
そこで碧が、勘解由小路降魔の死を告げたのだった。
長い沈黙の末に、銀正男は託されたものを手渡し言った。
「あいつが遺した宝貝だ。傾世元禳と六魂幡だ。俺には扱えなかった。多分、使いこなせる奴はいるだろう。無駄なことはしない奴だからな。あいつは、地獄に行った嫁と莉里を連れてきっと帰ってくるだろうよ。あいつは嫌な奴だが馬鹿では決してない。色々織り込み済みだ。お前等この家を守るんだろう?俺も仲間に入れてくれ。ここは組織的に狙われてるんだろう?まああいつの家なら放っておかんだろう。勘解由小路の遺児を抹殺したい奴がいるんだろうな。そういえば、双子の片割れはどこに行った?」
ああ。流紫降ね。碧は息を吐いた。
「今別行動中よ。生きてるのは間違いない。私達は繋がってるもの。あいつはあいつで怒り狂ってる。むしろ私達は邪魔よ。一人でやらせていた方がいい。この家は今パパの遺体がある。何があっても守らないと」
「ああそうだな。大事な親父さんだもんな」
「守らないと、今年の誕生日にプレゼントも小遣いももらえなくなる」
何てしみったれた娘だ。正男はそう思った。
最初のコメントを投稿しよう!