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地獄のインセスト
地獄の酒場で女悪魔とイチャイチャしていたどうしょうもない父親を真琴達が囲んだ。
「ああ?何だお前等は?おお!お前!思い出した!杏子じゃないか!どうしたお下げ髪やめたのか?高校辞めちまってどうしたのかと思ったぞ。ふうん。お前も死んだのか」
ガイアは露骨に顔をしかめていた。
「アンズはやめてって言ったでしょう?」
「まあ、現状認識は多少足りないが、自分が死んだことは理解しているようだ」
「このモノクル野郎はどこの何様だ?隣にいるのは嫁っぽいが。モノクル夫婦だな。おっぱいは素晴らしいが。で?このクソッタレな地獄に何の用だ?杏子、とりあえず隣の部屋に行こうか。そこで俺の永久機関に何の綻びもないことを証明してやろう。そこで尻を晒すがいい。美味しくいただいてやろう」
「この有様を見て、どう思う?真琴」
「正直見るに耐えません。確かに、出会った頃はこういう部分がありましたが、更に若いということは、こうも分別がないのですね。大学生時代の降魔さんでしょうか。ここまで見境がないとは」
必死に何かを耐えているようだった。泣いてしがみつきたかったが、相手がこれでは腰も引けようものだった。
「降魔。私は生きてその頃のお前を見たことがなかった。杏、君が異世界に行った頃か。今になって君を西京杏と呼ぶことになるとはな。次いでながら自己紹介をしよう。私は細だ。こちらの女性はお前の妻だ。勘解由小路真琴さんという」
はっ。勘解由小路は嘆息した。
「お前がくたばった時トキに言っていたんだ。お前は地獄に落ちたと。どうせそう言う様を晒していると思ーー嫁だと?!このおっぱいモノクルが?!俺の嫁?!っていうかいつ結婚したんだ俺は?!」
唐突に叫び出した。驚愕が顔に張り付いていた。
「実際には降魔さんが35歳の頃です。結婚して今年で8年です。子供も4人産まれました。一人、娘がここにいます。
突如膝の上にドサリと落ちてきて、勘解由小路はうぎゃっと言った。
「な、何だお前は?!俺の娘だと?!」
「あああああああああ!良かったのよさパパ!もう会えないかと思ったのよさ!ああパパの胸!あれ?!心臓が動いてるのよさ?!三田村さん何したのよさ?!でも良いのよさ!パパの匂いがするのよさ!」
「あ?ああ。そうか俺の娘だと?デカイじゃないか。結婚して8年目にしては育ってるじゃないか。主におっぱいが。お前を作った覚えはないが、うんいいおっぱいだ。性的に未熟なのかブラジャーすらつけてない。うん綺麗なピンク色の突起堪らんな。お前名前は?」
「莉里なのよさパパ。んー」
莉里はいつものように唇を尖らせた。
普段であれば唇を避けて、ほっぺとか額にキスが来ると思っていた。
しかし、勘解由小路の中では莉里を産ませた覚えはなく、ロリコンでもなかったが来るものは拒まなかった。
勘解由小路は、莉里の口腔に舌を突っ込んだ。
思わぬディープキスに莉里の体はビクッと痙攣し、それを受け入れた莉里は、舌の絡まる淫猥な感触に身を委ねていた。
そして、当たり前に莉里は父親の膝の上でお漏らししていた。
「うおい!汚ねえ!漏らしやがったなこいつ!」
乱暴に突き飛ばされ、莉里の体を真琴は受け止めていた。
汚い?莉里は小さく呟いていた。
何かが、まだ幼い娘を傷つけていた。
「莉里ちゃんは汚くなんてありません。ママは大好きですよ?可愛い莉里ちゃん」
真琴はしっかり聞いていて、慰めるように莉里の頭を撫で、ぎゅっと抱きしめていた。
勘解由小路は不機嫌そうに立ち上がった。
「何だ!お前の娘ってんならきちんと躾けろ!子供育てるのは母親の役目だろうが!」
「今の貴方に言っても仕方がありませんが、降魔さんは一度としてそのような暴戻な物言いはなさいませんでした。愛し合った末に産まれた私達の宝物を蔑することは許しません。シャックスさん!どうせここは貴方の支配領域でしょう?出てきてください!これ以上私の降魔さんを愚弄することは許しません!」
真琴はモノクルをかなぐり捨て、周囲に向かって叫んだ。
返答はすぐにあった。気がつくと、勘解由小路の背後に、初老の紳士が立っていた。
「お久しゅうございますな。ミセス勘解由小路」
地獄の大公爵の出現に、周囲は一瞬で静まり返った。
「降魔殿。相変わらずアバンギャルドなピアノでした。下がってよろしい。こちらのお客様方は私がおもてなししましょう」
「全員槍衾の地獄に落としてやれ!けったくそ悪い!誰かついてこい!そこのおっぱいだ!」
女悪魔を連れて、勘解由小路は店を出て行った。
「久しいなシャックス」
「細殿こそご健勝で何より」
「やはりそうかと言うよりないな。子供の頃から降魔はお前達を認識していた。あいつの面倒を見るよう令たのは私だ。あいつが死んだと聞いて、まず思ったのは誰が巨大な宝飾環を握ったのかだ。凡百な地獄の責め苦を与えるよりも、はるかに価値のある魂を蒐集するのがお前達だ。真理に到達した魂は、そんじょそこらの魂とは比べ物にならない」
「その通りです細殿。かつての我が主人の所有する極上の魂は、今はその大半が我が手にあります。二万カラットにも及ぶ真理、ソロモンの指輪のキーストーンは、今では私の所有物です」
「随分な言い方ではありませんか?曲がりなりにも降魔さんと貴方には絆があるはずです」
「単純な契約上の取り決めに従ったまでのこと。忘恩鳥の誹りを受けたとて、既に彼の魂は失われました。彼は永遠に我が手に。我等十二人は、常にその時を待ち到っていたのです。忠実な僕は彼が作った面にも似ております。そう。我等は面従腹背の面をつけていたのです。彼の望みは果たせぬまま、面すら無為になりました」
「降魔さんの魂は、もう元には戻らないのですか?」
「既にその可能性は潰えました。彼は貴方達最愛の女達のことすら覚えておりません」
「まさにハンプティダンプティね。失われたものは、神である私にすら戻すことは出来ないわ。あら?あの子は?」
「決まっている。あれはただの幼女ではあるまい。私のひ孫だ。今頃我が孫のベッドの上だろう」
「シャックスさん。降魔さんはどこにいるのですか?応えなさい。まだ口が達者に動く内に」
シャックスに詰め寄った真琴の目には、剥き出しの邪眼が、金色の蛇紋は揺らめいていたのだった。
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