自爆の戦場

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自爆の戦場

防御戦が反攻の機会になろうとした時、戦況は一変した。 アルコルが爬虫類系妖魅を砕いた時、突如その体は紅蓮の炎と共に爆烈し、影山さんを吹き飛ばした。 煙を上げて顔を上げた影山さんは、自身に襲いかかる妖魅と、お嬢様に迫る妖魅達が見えた。 碧が一瞬で凍りつかせた時、妖魅達は全て爆烈した。恐ろしい爆発があった。 「ゴホ。ああ臭い。自爆攻撃だな。大丈夫か影山」 「こ、これは?」 「多分ヒムラーだろうな。無用な弱兵に爆弾背負わせるか。影山。飛び道具はあるか?奴にしては考えたな。私の目で戦闘不能になった奴すら吹っ飛んだ。地獄で考えたんだろうな。ユダヤ人や捕まえた敗北主義者に爆弾括り付けて突入させれば戦果も上がり、ゲシュタポは恐怖の集団になる。フリッツ・ハーバーの空中窒素固定法と無用のユダヤ人、半永久的に尽きることのない爆弾があれば、クビにならずにナチ党の幹部でいられたのにな。しかし不味いな。これやられたら防げん。西のライル達はまだ飛び道具があるが」 その時、館の裏で爆発音がした。 「涼白!」 「ドイツで起きなかった悪夢か。こちらが寡兵であることを突いてきたな。これを数で押されたら防ぎきれん。哀れなのは敵の爬虫類だ。くくりつけられるどころか、直に爆弾を抱えている。ヒムラーめ。自分が戦場において素人であると知った上でこれか。どうするか。ここにはパパの遺体があるんだが」 恐ろしい戦場が現実になっていた。無慈悲であるが確かな戦果を追求する。 碧の推測が正しければ、相手の首魁はハインリッヒ・ヒムラーだという。 奴は、劣等とみなした者達を、生きるに値しない命と断じ、大量のユダヤ人や反ナチス、政治犯や同性愛者等を殺してきた男だった。 奴が、沖縄海戦を学んでいたら。爆弾を抱えて戦車に突入する日本兵の狂気の戦術を取り入れていたら。 まさに、爆弾を背負った爬虫類が迫り、影山は碧を抱き寄せてかばった。 迫り来る妖魅が、こちらに向けて跳躍したところで、その動きが停止していた。 戦場は、完全に静止していた。 「影山。嬉しいがちょっと離せ。現状を確認させろ」 影山さんから解放された碧は、飛びかかったまま空中で止まっている爬虫類を見つめていた。 「何だ?こいつ等だけ時間が停止したみたいだ」 「理解が早くて助かるわ」 突如発せられた声。見ると、何とも妖艶な女の姿があった。
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