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美しい涙
庭に集合していたメンバーは、ガイアの帰還を待っていた。
「みんな消えちまったんだが、何があったんだ?ああ氷花、指に薬ヌリヌリしてやるぞ。見ろお前等。可愛い可愛い俺の嫁さんが名誉の負傷しちゃったんだぞ。怖かったろう」
「人の妹とイチャイチャするな!鬼哭!俺の大事な涼白を妊娠させるなど俺は認めんぞ!」
「俺が一番驚いてんだよ!氷花つわりか?!お前の部屋で安静にしないとな!」
「指が痛いのー。正男♡優しくヌリヌリして」
「うん!ヌリヌリしてやるぞ!こんな冴えない中年と!ありがとうな氷花!愛してるぞ!可愛い子供を産んでくれ!」
「人目を憚らずチュッチュするな!お兄ちゃんは認めんぞ!す。涼白のスベスベおっぱいをお前のようなおっさんに触らせるものかあああああああ!」
「正男♡お兄ちゃん怖いだす」
「このシスコンが!氷花怖くて訛っちゃってるだろうが!ほっとけ!赤ん坊生まれても抱かせてやらんぞ!」
ツノを突き合わせるおっさんとシスコンを見て、ライルは呆れた声を出した。
「どうだっていいじゃねえか。おっさんもヤモリもうるせえよ。自爆っつうかカミカゼ爬虫類が一瞬で消えたのは神か。エラルかガイアかは知らねえがよ。どのティッツだ?」
問われて碧は応えた。
「ガイアだっつってたぞ。今頃あれだ、ヒムラー殺ったことで強い性的快楽を覚えて、ワルサーの銃口を尻にだな」
現れたガイアはライルを踏み潰して言った。
「尻に?尻に何をするって?」
「どけえええええええええええええええええ!ピンヒールで踏むな!ごめんなさい!痛えええええええええええええええええええ!」
「彼女がガイア。お聞きしたいのですが。王陛下と連絡が取れないのですが、アースツーに何か起きているのですか?」
「ジョナサンの生徒ね。私は先代の校長だったわ。そうね、はっきり言うと、アースツーは滅んだわ」
ユーリが膝を落とした。
「そんなーー。父母も、我が師ブリュンヒルデ様もーー?有り得ない。王陛下はいずこに?」
「今エラルから連絡が来ているわ。ジョナサンは神界にいる。向こうは向こうで頑張ってるみたいよ。それで、準備はいいの?泣けるの?」
みんなの視線が、碧に集中していた。
「まあそうだな。影山、ちょっとほっぺを張ってみろ」
「出来るかあああああああああ!お嬢様の頬を張れと?!」
「どけガイア!張って欲しいなら張ってやるよ。ワンワン泣かせてやる」
ガイアはライルを軽蔑の目で見て言った。
「ただの涙じゃないわ。真琴も莉里ちゃんも、降魔を思って涙を流した。魂の問題なのよ。莉里ちゃんは父親に乱暴に扱われて泣いたわ。真琴は母親として自分を覚えていない夫を泣きながら殴った。あと一人なのよ。降魔の家族の女の流す涙が、失われた降魔の魂を呼び戻すことが出来るはずよ」
ふん。碧は息を吐いた。
「なくなってしまったものはもう戻せないんだ。パパは何もなくしていなかった。たとえ魂を分断されようとも、パパは。うんだって、パパは、私のパパだもん」
ジワリと、碧から涙が滲んでいた。冷静でいようと話している内に、感情の昂りがあったようだった。
「降魔は、貴女の父親は、暗い地獄から呼び出される時をずっと待っていたのね。恐らく、自分の死を認識した降魔は、死の先を見据えて手を打っていたのよ。降魔を救うのよ。それが出来るのは貴女と、私だけなのよ」
「涙はダイレクトな魂の表出だもの。パパの魂は全く欠けていない。ガイア、ねえおばさん。お願い。パパを助けてあげて。パパがいない人生なんて考えられない」
碧の目から流れた大粒の涙を、ガイアは掬い取った。
涙の雫は、一つに合わさり真珠大の宝石に形を変えた。
影山さんは、泣き噦る碧を抱き寄せた。影山の胸で泣く碧は、年相応の幼い娘だった。
揶揄う者は誰もいなかった。涼白さんも泣いていたのだった。勘解由小路の帰還を望まず、待ってもいない者は誰一人存在しなかった。
「これでいけるわ。降魔は必ず帰ってくる。ジョナサンはーーえ?」
何かを感じて、ガイアは戸惑いを見せた。
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