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時の流れの中で 迷走
タイムリーパーが作り出した超空間を流れながら、ジョナサンに臥待月は言った。
「宜しいですか?今我々は貴方に纏わる時間軸を遡っています。ニュクスはマルガレーテ・エリュシダールという最高の肉体を得ることで、かつてないレベルの力を得ています。私達がするべきことは一つです。勇者ジョナサン。マルガレーテとニュクスを会わせてはいけません」
「ん?どういうことだ?マルガレーテを守れと?自殺させないようにってことか?」
もう何年も前、レディーパピヨンを名乗っていたマルガレーテは、ユノにトラウマを植え付けた。純真な少女には許容出来ない光景を見せつけようとしたのだ。
そして、最後の駄目押しに、マルガレーテはユノとジョナサンの目の前で自殺したのだった。
未だに、マルガレーテを救えなかったことは、ジョナサンにとって手痛い敗北の記憶として、楔のように残っている。
「そうではありません。あそこでユノさんが男性性に恐れをなし、東の大陸に逃亡しなければ、貴方方が東の大陸に赴くこともなくなり、私と戦うこともなくなります。時の流れの齟齬は無限に連なっていきます。あの時、王都の伯爵邸で彼女は死ななければなりません。マルガレーテ・エリュシダールの自殺は必然です。避けて通れません。問題は死した後、ニュクスと融合する前に、彼女の魂をニュクスより先に確保しなければ」
そうか。少し残念ではあった。出来ることなら、マルガレーテは救いたかった。
自ら死ぬことで図れる結末などありはしない。
マルガレーテは、何もかもを、己までもを破壊することで、自身にまつわる全ての事柄を是正しようとしたのだ。
死ぬことで達成出来ることなどありはしないのに。
超空間が抜けて、懐かしいダブリン伯爵邸の、今にも雨が降りそうな匂いがした。
そして、その時間軸を生きていたジョナサンの痛烈な懊悩と、男を知らぬ幼いひまわりの慟哭が寂しく響く辛い結末の裏側で、
縛り上げられたレディーパピヨンが、消化不良気味な表情でジョナサンを見つめていたのだった。
「助けちゃったのでぃいす」
「いや。だってさ」
「どうしましょう?時空が滅茶苦茶になってしまいましたが」
「ま、まあ。これでニュクスはこいつと融合しないってことだろ?アースツーは救われた」
傷を隠して顔を蝶に似せた邪悪な女を、今のジョナサンは助けちゃったのだった。
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