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寺の姫クリステラ
鬼怒寺の方丈では、カノンとフェリックスが嬉しそうにハイハイしてじゃれ合っていて、さながら仔犬の兄妹のように見えた。
島原真帆は、手近にあった唯一の自由帳と簡易な筆記具で、赤ん坊がクンクンし合っている微笑ましい様子をスケッチしていた。
「ああ。上手ねマホちゃん。ブリュンヒルデお姉ちゃんみたい」
突然背後から覗き込まれてうなじをクンクンされていた。つい今しがたまで、彼女は夏帆をあやしていたというのに。
「クリステラちゃん」
「ねえ。それいっぱい描いてくれない?事が片付いたら欲しい。特にこのカノンちゃん可愛すぎて。アカデミーの一角に特別ブース設けて展示したい。アースワンにも天才がいるって」
「うん。いいけど。ねえクリステラちゃん。アースツーっていうの?貴女がいた世界は滅んじゃったんでしょう?どうにかなると思う?日本だって」
「確かに滅んだ。生きとし生けるものは全て闇に飲まれた。私のママも、カノンちゃんのママも。でもね、だから何だというの?まだ終わってない。あの空を覆う闇は、アースツーを飲み込んだ闇と同じものよ。敵は一つだけ。だったら倒せるし、アースツーも元に戻るわ。マホちゃんには友達いるっていってたよね?ルシフル君だっけ?確かに彼はまだ生きている。神に匹敵する強大な、ゴゴドンゴの壁みたいな魔力を感じる。あの隔絶された闇のドームの中からでも感じる。完全に遮蔽は出来てないから。ーーあ?」
クリステラが闇の天蓋を見つめた。つられて真帆も見た。
その時、世紀の大魔王流紫降の絶大な魔力が、東京全域を覆い尽くそうとしていた。
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