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動き出した禍女
禍女の皇、東雲ヤコは玉座に踏ん反り返って、どうでもよさそうに言った。
「ねえ羽村さん。現状はどうなってるの?全員死んだ?っていうか殺した?下らないパパの子供も、それに付き従う無価値な連中は」
「はい。そうではございません我が君。それ等愚昧なる輩は未だ健在でございます。既に手は打ってございます。魔上皇を誅した我が君の僕が、奴等の抹殺に動いております。いずれ朗報がもたらされるでしょう」
ふーん。そんな声が聞こえた。
「私の仮定的存在の城はパパに駄目にされちゃった。数万人いた殺人鬼はほぼ全滅。今私の手にある軍勢は精々ママが増やした爬虫類だけでしょう?それと私が見出した僕達だけ。とりあえずあの不快なパパの家を打ち壊して。道玄坂の勘解由小路邸を無音にしてきて」
「御意。禍女の皇が僕三名が向かっております。勘解由小路邸と警察庁祓魔課、並びに現在消息不明の魔神皇。全て殺して参ります。時に我が君。貴女様がそれ等を成就した暁には、どうなさるおつもりでございましょうか?」
「別に。ニュクスのおばちゃんにあげようと思うんだけど。もう一つ世界を滅ぼしちゃって今拍子抜けしてどこかでフテ寝でもしてるんでしょうね。まあなるようにしかならないわ」
投げやりに言い放ったヤコに、羽村は前から抱いていた疑問を投げかけた。
「一つお伺いしてよろしいでしょうかヤコ様」
「なあに?」
「貴女の抱くビジョンは、何処にございましょうか?貴女の真意は那辺にございますか?」
あー、あー。ヤコはどうでもよさそうに言った。
「那辺も何も、何もないのよ私には。私は自分で大きくなった。私を育てたにいにも、羅吽も私に進むべき道を示すことはなかった。だからね、私は決めたのよ。誰かの邪魔をして生きるのよ。誰かが、艱難辛苦の先に喜びのハッピーエンドが訪れたとする。そんな時に私が現れるのよ。何をしても届かない存在が幸せな未来を残らず斬獲していくって訳。私はそういう存在よ」
「最後に無慈悲な結末を、終末をもたらすのですね。さながらデウスイクスマキナのように」
「そうよ。心底うざがられながら決定的な破滅を届けるのよ。さて」
そう言って、やおらヤコは立ち上がった。
「じゃあ行ってくるわ。一番頑張ってる主役。そいつのところに行ってくるわ。まだ終わってないみたいだから、今度こそ終わらせてくるわ。お前も来い羽村さん」
「地獄ですね。お供いたします」
ヤコの思いを聞いて、羽村、ジル・ド・レは揺るがなかった。彼女と共にどこまでも進んでいこう。
そうだろう?ジャンヌ。お前の進む道だ。俺が行かんでどうする。
たとえ滅びの道であろうと、共に行かん死への道を。
これが我等のヴィア・ドロローサだ。登りつめよう。俺のジャンヌ。
ヤコのあとを追って、羽村さんは進んでいくのだった。
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