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私は口をひき結んだ。血の色が赤でも、感情が死んでいる奴は、いる。
「うわあ」
またぞろメルヘンがいかにもメルヘンな声を出す。「真っ赤だねえ」
西日が教室をつつんでいた。メルヘンは大きく口を開けて、両手を広げて、全身でその脈打つような赤をうけた。胸をふくらませて深呼吸をして、楽しげに笑う。
「金魚のかわりに夕陽を食べようかなあ。夕陽ならいくら食べてもなくならなさそうだし、たぶん夕陽も痛くないだろうし。いい考えだと思わない、蝶子ちゃん」
まるではじめて夕焼けに遭遇したみたいに、そんなに純粋に感動するだなんて。私にはただの日暮れにしか見えないのに、ひどく感じやすい宇宙人だなと、私は思った。
「あんたって、本当に、ばかみたいに素直ね、メルヘン」
私の寸評に、メルヘンはきょとん、と、また擬態語を鳴らして、
「怒らないけど、泣くことはあるんだね、蝶子ちゃん」
やっぱり、血の色、青なんじゃないの。
からかうようにいわれて、うるさいなあと、私は怒った。
【 終 】
* 最後までお読み下さりどうもありがとうございました *
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