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「出てきたら、メルヘン」
私もみんなと同じように、彼女をあだ名で呼ぶ。つまらない同族意識からじゃない、その方が、聞きなじんでいて、自然だった。
「えっ、どうしてわかったんだろう。気配消せてないかった、私、」
ちっともわるびれることなくメルヘンは教室の中に入ってきた。いつもどおり飄々としている。他の同級生たちはみな帰るか、部活へ行ってしまって、ここには私たち二人しかいない。
「あのさ」
私は半分演技でため息をつく。
「何のつもりかしらないけど、やめてね、こういうの。迷惑だから。何度やっても、ひっかからないから」
もう何日も、こうやって、剃刀の入った封筒を机の中に入れられていた。実は一回目の時に、油断して封を開けて、指を切ってしまった。家に持ち帰ってのことだから、当然メルヘンはその現場を目撃してはいない。けれども私の指に貼られた絆創膏の存在は、確認したはずだ。それからも何度もくりかえし封筒を入れるということは、私が指を切るところを、自分の目でちょくせつ見たいということなのだろう。しかし私は二度目からは開封することなく、そのまま教室のごみ箱に捨ててきた。
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