血の色は赤

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 一体何の目的だかわからないし、その動機にもべつだん興味はないけれど……嫌うのならご自由にどうぞ……、さすがにしつこかった。そろそろ私がひっかかる可能性は皆無だと悟ってもいい頃合いなのに、しつようにくりかえす。いくばくかの期待をしているのなら、本当にメルヘン。おとぎ話の登場人物は、あきれるくらい簡単に罠にかかる。だけど私は、おとぎ話の登場人物ではない。 「えっ、それだけ? 迷惑って、それだけ? 怒らないの、蝶子(ちょうこ)ちゃん」  メルヘンは大きなひとみをさらに大きくして、茶色い黒目がまるまる見えている。火男(ひょっとこ)の目だな、と、私は思う。 「べつに、こんなことくらいで怒らないわよ。ただ、迷惑だからこんりんざいやめてほしいだけ。わかった?」  念を押すと、へええええ、と、メルヘンは仰々(ぎょうぎょう)しく感心をする。メルヘンはいつだって仰々しく、そんなメルヘンのふるまいを、みんなはかげでせせら笑う。過剰な反応は、小学生でおしまいにしないと、遠慮なくばかにされる。 「そっかあ、怒らないんだ。そういえば、蝶子ちゃんが怒ったところ、見たことないや。さすが、冷静だね」  私の左眉が、勝手に痙攣(けいれん)をする。 「冷静、じゃなくて、冷酷っていいたいんでしょう、本当は」  きょとん。と、擬態語まで空耳するような表情で、メルヘンは私を見つめる。どこかの運動部のかけ声が、やたら能天気に聞こえる。残暑がきびしくて、全身から汗が噴き出す。 「私、冷静っていったよね?」  メルヘンは首をかしげる。二つに束ねた長い髪が、半そでの腕をさらりとなでた。これはねえ、アンテナ。結んだ髪を両手に握ってそういったメルヘンを、みんなはお腹の中であざけりながら、笑った。
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