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「とにかくもうこんなことはしないで。何度やられても、私、絶対に開けないから。そのままごみ箱に捨てるから」
「ラブレターなのに?」
「ラブレター?」
とんだ狂気の恋文だなと、私はあきれた。
「なら、なおさらやめてちょうだい」
これ以上つき合ってはいられず、教室を出ようとすると、手首をつかまれた。振り向いたメルヘンの顔つきは、もう、道化ではない。
「ね、血を見せてよ」
微笑んでねだる唇が、いやに白っぽくすきとおっている。私は顎を引いた。
「血、」
「そう。私、蝶子ちゃんの血が見たいんだ」
電子音のような甘ったるい声でいうと、メルヘンはスカートのポケットに手を入れて、カッターナイフを取り出した。キチキチと、刃をふた目もり出す。つくづく物騒な女だな。
「……どうして、」
かつてないほどの至近距離なのに、メルヘンはさらに顔をよせて、ささやくように、
「蝶子ちゃんの血が青いって、本当、」
のど頸を突かれたみたいに、とっさに声が出ない。間近で見るメルヘンの子どもじみたひとみには、内心の毒がしみだしてはいなかった。たとえ一滴でもしみだせば、その目はたちまち、濁る。
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