19人が本棚に入れています
本棚に追加
こんなひどいこと……、ゆるせないって、思わないの。
感情の高ぶったふるえ声で問われる。ゆるせない? 誰を? 何を? 現実そのものを? その対象がわからず、私は沈黙した。
するとみんなは、行こう、もう出たい。と、先生の許可なく展示室を出ていってしまった。私は写真に向きなおった。メルヘンがどこにいたのかは、おぼえていない。おそらく部屋を出ていった集団の中にいた。
あの時、私は誰を、何を、みんなと一緒に憎めば良かったのだろう。一度プロフィール帳に冷酷だと書かれたら、卒業するまで決してその二文字は消せない。クラスの全員が共有するプロフィール帳。
それにしても心がつめたい奴だから、あいつの血の色は青なんだって、それこそメルヘンな思考だな。メルヘンはメルヘンだから、メルヘンな思考を真実だと思ったのだろうか。
「本気で、信じてるの。私の血が青だなんて」
「青じゃないの、」
「青じゃない。そんなこと、現実的に考えればわかるでしょう」
「じゃあ、何色なの、」
決まりきったことを訊いてくる。ここは現実で、おとぎ話ではない。
「あんたと同じ、赤よ、メルヘン」
はああああ、と、メルヘンは頭をたれて大げさに落胆してみせる。
最初のコメントを投稿しよう!