血の色は赤

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 こんなひどいこと……、ゆるせないって、思わないの。  感情の高ぶったふるえ声で問われる。ゆるせない? 誰を? 何を? 現実そのものを? その対象がわからず、私は沈黙した。  するとみんなは、行こう、もう出たい。と、先生の許可なく展示室を出ていってしまった。私は写真に向きなおった。メルヘンがどこにいたのかは、おぼえていない。おそらく部屋を出ていった集団の中にいた。  あの時、私は誰を、何を、みんなと一緒に憎めば良かったのだろう。一度プロフィール帳に冷酷だと書かれたら、卒業するまで決してその二文字は消せない。クラスの全員が共有するプロフィール帳。  それにしても心がつめたい奴だから、あいつの血の色は青なんだって、それこそメルヘンな思考だな。メルヘンはメルヘンだから、メルヘンな思考を真実だと思ったのだろうか。 「本気で、信じてるの。私の血が青だなんて」 「青じゃないの、」 「青じゃない。そんなこと、現実的に考えればわかるでしょう」 「じゃあ、何色なの、」  決まりきったことを訊いてくる。ここは現実で、おとぎ話ではない。 「あんたと同じ、赤よ、メルヘン」  はああああ、と、メルヘンは頭をたれて大げさに落胆してみせる。
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