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「なんだあ、そっかあ。残念だなあ」
「残念?」
「もしそうだったら、私、嬉しかったのに。なあんだ」
私は眉根をよせる。「どういうこと、」
メルヘンは顔を上げて、少してれくさそうに笑った。
「私のね、血は、赤じゃないから」
「どういうこと、」
「私の血は、本当は、青だから」
「何いって、」
私は見たことがある。あれは教室で飼われていたベタの入った金魚鉢が、落ちて割れていた時のことだった。
朝、同級生の一人が教室にやって来ると、金魚鉢はこなごなに割れて、水が床を濡らし、ベタは死んでいた。その割れたガラスを片づけようとして、メルヘンは手を切った。右の人さし指から流れた血は、たしかに、赤だった。
「本当だよ。本当に本当の、真実」
メルヘンは左手をひらひらと振ると、カッターナイフで人さし指を切った。
「ほら、青でしょ」
切り口から球となって出てきたのは、矢車菊のようなあざやかな青だった。球ははかなくこわれて、白い肌に、青い一線のすじを描く。
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