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 合宿での思わぬ告白。そして初の恋人(男だけれど)が出来てから一週間ばかり。  俺は約束通り涼太の家に行って勉強を教えたりしている。  真面目に教えている。本当に真面目にアイツの勉強を教えているんだ。だって……涼太が受ける大学、俺の受ける大学の違う学部だったんだ。  未来なんか分からない。どっちかが落ちたらそれでお終いだ。けれど……夢くらいは見たいから今頑張っている。  勿論恋人となれば……そういう事も興味はある。が! ネットで調べた時点で頭の中がショートした。  男同士で出来る事は知っている。学校の一部の女子がそんなの好きで話してるのを聞いた事がある。でも、まじで……マジでぇ……  調べれば調べる程、(俺って、下じゃね?)感が増していって凄い。体格は涼太の方がよくなってしまったし。  それに、何故か涼太はとてもキスが上手い。そりゃ恋人だからな! 勉強で集まっても、ちょっとくらいはそういう気持ちになって……キスくらいはするもんで。  その時のキス、凄くクラクラするんだ。舌を差し込まれて刺激されて、女みたいな声が出て恥ずかしいのにもっと欲しいと思ってしまう。ぼーっとして、唇が離れた後も未練がましく涼太の唇を見ていたりして、我に返ったときの恥ずかしさったらない。  そういう事も合わさって、俺が下で確定なんじゃないかと思ってしまうのだ。  八月の始まり、町はにわかに賑わっている。それというのも今日は地域の神社のお祭りで、ここらじゃ一番大きい。朝から大人は地域の神輿の準備だ、担ぎ手のおもてなしだ、夜の見回り強化だと忙しい。  かくいう俺の母親も朝一で出て行って、昼に戻ってきてまた出て行った。  俺も涼太と二人で祭りに行く約束をしている。Tシャツにハーパンという姿で、それでも少しは勉強してからと思って徒歩二分の涼太の家を訪ねると、忙しそうな涼太のおばさんがひょっこり顔を出した。 「あらカズくん、いらっしゃい!」 「お邪魔します、おばさん」  涼太のおばさん、良子おばさんは小柄でちょっとふっくらしていて、とても可愛いおばさんだ。 「いつもウチの涼太がごめんなさいね」 「いえ、俺が言い出した事ですし、俺も涼太とまた一緒の学校行きたいんで」  おばさんがエプロンの裾で手を軽く拭いながら出てくる。そのタイミングで涼太も二階の部屋から出て来て、俺を迎えてくれた。 「涼太、今日はカズくんと一緒にお祭り行くのよね?」 「あぁ、うん」 「今日は母さんも父さんもお祭りの片付けとかあるから帰り遅くなるわ。カズくん、泊まってく?」 「え?」  俺はドキッとして涼太を見た。恋人になって一週間、それなりに色々興味はあれど踏み出せない状態の今、お泊まりということは、つまり……  涼太も俺をジッと見ている。判断を委ねるということなのだろう。 「ほら、お祭りの日はいつも泊まってたから」 「あぁ、そうですよね! ……では、お願いします」 「分かったわ。後で涼太の部屋に布団運ぶわね」 「あの、それは俺がやりますよ!」  何回も泊まっている家で、シャワーの使い方から布団の場所まで知り尽くしている。小柄なおばさんにそんな重労働はさせられない。 「あら、そう?」 「俺も手伝うから大丈夫だって、母さん」 「アンタはむしろ率先してやりなさいよ」  上手く補助に入ったはずの涼太が言われ、苦笑する。そしてとりあえず、涼太の部屋へと行く事になった。  いつもとは、緊張度がいが違う。涼太の部屋に入った俺は、なんとなく涼太と目が合わせられなかった。 「一馬、その……本当に泊まりでいいの?」 「……うん」 「……俺は、期待してもいいの?」  外の熱気とは違う、体温を肌で感じる。少し陰る視界、頬に添えられる手。僅かに上向いた俺の前に、切なげな表情の涼太がいる。  これだけで、俺はドキッとするんだ。いつもは明るくて柔和なこいつが、濡れた男の顔をするんだ。こんな涼太を、俺は一週間前まで知らなかった。 「んぅ……」  確かめるようにゆっくりと近づいてくるキスは、妙にドキドキする。勢いでとかじゃなくて、好きだと伝わるから。ドアに背中を預けた状態でするキスは、俺を一瞬で違う何かにしてしまう。 「一馬、俺……一馬と……」  切なげな視線で涼太が口を開く。とうとう「したい」って言われるんだ。そう覚悟をした俺は…… ドンドン!! 「涼太ー、カズくーん、今日のお祭り浴衣着ていくー?」  ビクンとした俺は一気に覚醒して、涼太の体を押しのける。涼太も大人しく引いてくれた。  ドアが開いて、おばさんが顔を出す。手には切ったスイカがのっかっている。 「母さん、突然なに?」 「さっきお父さんのはっぴ出したら浴衣見つけたのよ。サイズも良さそうだし、着るかな? と思って」  涼太はちょっと残念そうに溜息をついて、答えは保留にまずはスイカを食べる事にした。  ドアを閉めて、何となくそんな気分も霧散して、二人でローテーブルに向かい合ってスイカを食べている。 「浴衣、どうする?」 「ん? 俺は着れないけど」 「着せてくれると思うよ」 「うーん」  窮屈じゃなきゃ、着てみたい。あんまり機会もないし、季節的なものだし。それに祭りと言えば浴衣という気もしないではない。  それにちょっとだけ、涼太の浴衣姿を見てみたい。  チラリと盗み見るように涼太を見ると、思いきり目があった。 「あの……一馬」 「浴衣、お願いしようか」 「! うん!」  目が合った瞬間、何となく分かった。涼太も俺と同じ事を考えているんじゃないかって。  スイカを食べ終えてお皿を二人で下げに行って、ついでに浴衣を着たいと言ったらすぐに着せてくれた。  俺は青地に黒と白の縦ラインの入ったやつで、結構渋い。  そして涼太は深い緑色に黒い模様の入ったものだった。  似合ってる。袖元から見える手首とか、ちょっと見える胸元とか。 「二人とも似合ってるわ!」 「有り難う、おばさん」 「戻って来たら脱ぎっぱなしでいいわよ」  そう言うとおばさんは時計を見て「遅れる!」と言ってバタバタ出て行った。  俺は涼太を見て、涼太は俺を見て、何となく視線を逸らす。ムズムズするような照れがあって、まともに涼太を見られなかった。 「あの、さ」 「うん」 「少し早いけど、お祭り行く? もう出店とかは出てると思うし」 「そうしようか」  このまま二人でいてもこのまま無言か、さもなくば妙な方向に転がりそうだ。今日はお祭り……デートなんだから、行きたいじゃないか。  俺は浴衣にサンダルにボディーバックという、ちょっとちぐはぐな格好でお祭りへと繰り出すのだった。
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