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お祭り会場は沢山の出店が参道の両側に出ていて大賑わいだ。まだ五時ということもあって子供も多い。定番のヨーヨー釣りに金魚すくい、チョコバナナなんかは子供で大賑わいだ。
「人多いな。はぐれそう」
「そうだね」
見回す俺の前に、手が差し伸べられる。マジマジとその手を見て、涼太を見て、もう一度手を見る。これは一体……いや、みなまでいうまい。
「手、繋げばはぐれないけれど」
「……流石にちょっとそれ、勇気いります」
「だよね」
引っ込められた手。それを少し未練っぽく見ている自分もいることにはいる。でも、近所の人も学校の奴もいるだろうここで手を繋ぐ勇気は、俺にはまだなかった。
「あっ、苺飴だ」
甘党の涼太が早速好物を見つけて近づいていく。竹串に苺が刺さっていて、それの回りをキラキラしたべっこう飴がコーティングしてある。
当然のように二つ買った涼太が、一つを俺に笑顔で差し出してくる。俺もそれを受け取って、口に放り込んだ。
パリパリする外側の飴の部分を噛むと、中からは苺の甘酸っぱい果汁が溢れてくる。小さな頃もこうして二人、ならんでこれ食べたっけ。
「涼太、あっちにかき氷も売ってる」
「あっ、本当だ」
「何味にする?」
「うーん……ブルーハワイ」
「お前あれ好きな」
あの見事に青いかき氷を、何故か涼太は気に入っている。冷蔵庫にシロップが常備されているくらいだ。
笑った俺を拗ねた顔で見る涼太は「だって、美味しいし」とぶつくさ言っている。そんなこいつが可愛いな、なんて思う俺は重症だろうな。
涼太にブルーハワイ、俺はレモンを選んだ。熱い日には嬉しい食べ物だが、あっという間に溶けてしまうのが難点だ。
「一馬のも美味しそう」
「一口食うか?」
かき氷のカップを差し出すと、嬉々として一口持っていく。そして当然のように涼太も差し出してくるから、それを貰う。
これって、間接キスになるんだろうか?
ふと思った事に心臓がまたトクンと一つ鳴って、俺は顔を赤くした。
焼きそば、たこ焼き、唐揚げなんてものを食べ歩き、時々友達や先輩達に案の定出くわして、宿題だなんだと話しては別れて。時間はあっという間に七時半を過ぎている。
少し歩き疲れた俺の手を、ちょっと暗くなってきたのをいい事に涼太が握った。
「そろそろ、帰る?」
「花火見ないの?」
今日は大きな花火が上がる。場所取りをする人もちらほらだ。
けれど涼太はチラリと空を見て、俺を促した。その理由は、知っている。
「俺の部屋から見られるよ」
「知ってる」
小さな時、人混みの花火会場は子供に優しくなくて、俺は涼太の家に行ってはこいつの部屋で花火を見ていた。方角的にも涼太の部屋からは花火がバッチリ見える。
でも多分こいつが早く帰りたいのは花火の為とかじゃなくて、二人きりになりたいからだ。
俺は腰を上げる。そしてこいつと手を繋いだまま、祭り会場を後にした。
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