あかんおじさん

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車の列が途切れる。 逡巡しながら一歩足を踏み出す。そしてまた一歩踏み出すと車道に足がはみ出る。 「あかん・・」 ヒッ!聞こえてきた。慌てて足を引っ込める。 「あかん・・あかん・・」 しばらく声は聞こえ続ける。道の向こう側を見ると、赤いトレーナーに赤いシャツ、赤い靴、そして赤い帽子を深く被ったおじさんが立っている。出た、あかんおじさん。 彼はあかんおじさんと呼ばれていて、信号無視をして横断歩道を渡ろうとする人がいたら、目の前に現れてあかん、あかんと言い続ける。子どもの信号無視を止める、良い人だと思うかもしれないが、彼は決してPTAなどではない。人間ではないのだ。見た目は完全に人間だが、幽霊だから突然現れて突然消える。そして、一番の特徴は中学生以下の子どもにしか見えないのだ。だから妙な格好をしていても警察に補導されることはないし、大人は平気で信号無視をする。 うなだれながら俯いていると、8時半を告げるチャイムが鳴った。はあ、遅刻か・・ 顔を上げると信号は青に変わっており、あかんおじさんも居なくなっている。 横断歩道を渡り始めるが、もう走る気もない。重い足取りで学校に向かう。
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