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セックス
「やだ、恥ずかしいっ」
由良アヤカは非難したものの、こちらの腕の中から逃れなかった。
俺はショーツに手を入れ、亀裂を指でなぞる。そこはしっとり濡れていた。ゆるりと撫でるたび、細身が跳ねる。
俺はあらわになった乳房を揉みながら、相手の秘部を弄りつづけた。彼女が色っぽく喘ぎ、肩を震わせる。俺は確認するように尋ねた。
「濡れてんの、分かる?」
「えっ」
由良アヤカは信じがたい顔でこちらを窺った。
「ほんとに?」
「感じやすいんだな」
「志摩くんのテクニックのせいだよ」
「普通のことしかしてないって」
男として「こんなの初めて」と言われたい願望はあるが、過去に付き合った女子の反応を思い返すに、俺はたぶん平均レベルだ。みんながみんな演技をしていなければ。
特殊なことはしていない。
服の上から身体を撫で、ブラウスを開いてブラジャーをずらし、やや小ぶりな胸を舐めたり吸ったりして、太ももをまさぐった。
二人の間柄からすれば、こんな行為に至ることが異常事態だ。緊張、不安、罪悪感、迷い、そして復讐心。
それほどのものに見舞われれば、身体はいつもと違った状態になるだろう。
俺の体内には欲望が渦巻いている。それでも相手が強張ったまま怯えていたら、すこし冷静になったはずだ。
しかし実際には、抱きしめると同じように返し、恥ずかしがりながらも色めいた表情を浮かべ、触れれば敏感に反応する。
分かっている、彼女が恋愛感情を抱いていないことは。けれど、行為は一方通行ではない。
お互い、まともに思考できなくなっている。いざ臨んだものの、できない可能性も頭をよぎっていた。
しかし、彼女は快楽に呑まれた様子を見せる。俺とて、なんら問題ない。
心なんてなくても、たやすいものだな。
浮気や不倫を肯定するつもりはサラサラない。けれどそれが惹かれ合って行われるなら、俺たちのほうが救いようがない。
由良アヤカが俺を捕まえたのか、俺が彼女を捕まえたのか。安全圏は消えてしまった。
濡れた秘部はみだらに誘いかけ、俺の分身は収まりたいとわめき立てる。もはやユウトやナナミなど、どうでもよかった。
「こっちは?」
俺は埋もれた花芯をつついた。彼女がこれまでで一番大きな声を上げ、身体をしならせた。指先で転がしてやると、恥辱に満ちた顔を背ける。
「ダメっ、おかしくなる」
「気持ちいいってこと?」
「やぁああ」
優しいタッチで弄る。細身が過敏に反応する。彼女が追いつめられるのが伝わってきた。その波を煽るように責める。
由良アヤカがひときわ高く喘ぎ、ビクンビクンと痙攣する。乱れた呼吸を繰り返し、泣き崩れるような声を漏らす。
そして、こちらの袖を握りしめていた手を、床に落とした。
目を閉じて余韻に浸る彼女に、俺はわざと尋ねた。
「いった?」
彼女はまぶたを上げたものの、いたたまれない表情で目を逸らした。
「ダメって言ったのに」
「嫌だったのか?」
「身体が熱くて……訳が分からない」
彼女はなぜか泣きそうに唇を噛みしめた。
「ちょろい女だって思ってる、よね」
「なにも考えられねぇ。まともでいられるわけないだろ」
乳房の尖った先端を吸い上げると、彼女は喘いでのけぞり、こちらの頭をかき抱いた。
「志摩くんは、私に陥れられたかわいそうな人」
俺は困惑した。
彼女を押し倒したのも身体を好きにしているのも、こちらだ。たしかに、最初に誘いをかけたのは向こうだけれど。俺はやめたいと思えば、いつでも退くことができる。
「いま、『やっぱりしたくない』と言われたらかわいそうだけど」
すると、由良アヤカは潤ませた瞳を向ける。
「心なんてなくていいから、私を見て。嘘でいいから、欲しいと言って。いっときの衝動で構わないから……抱いて」
その言葉に胸が詰まった。
俺たちのあいだに特別な感情はない。ただ互いの身体を求める。
でも、完全に割り切れるほど大人になれない。
心が揺れ動く。共感、同情。自己庇護、代替行為。正しい判断なんてできない。
相手が必要とするなら、この手を差し出す。
「後悔するぞ。それでもやめない」
覚悟を強いたのに、彼女はまるで許しを得たように、はかなく微笑した。
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