青春という言葉

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「はあっ、はあっ……た、タイム……はあはあ。」 「えー、もう?」 不満そうに口を膨らませながらも、永元は自転車を止めた。 甘かった……。 永元だって女の子なんだから自転車をこぐスピードも遅いだろうと思っていたのに……。 何でこんな坂道をそんな勢いでこげるんだ……。 それについていける前久保も尋常じゃないぞ。 「ヤバい、疲れる……息が……死ぬ……。」 「ヤバい疲れる息が死ぬ?日本語で話してよ、吉口君。」 「そうじゃ……なくて……。」 「体力ないなあ。」 「お前が俺の足が速いなんてデマを流したんだろうが!」 「まあ落ち着けよ。」 ふう、やっと息が整ってきた。 「それにしてもさ。」 と、前久保が永元のほうを見やりながら言った。 「ん?」 首をひねる永元。 「自転車と並んで走ってると、青春って感じしないか?」 「あ、それすごい分かる!坂を自転車で登りながら、青春だあーーって叫びたくなるよね。」 頼むからそんなこと叫ばないでくれ、近所迷惑の上に不審者扱いだ。 あれ? でも……。 「そういえば、なんだけど。」 俺は二人に言った。 「青春って、なんなんだ?」 一瞬時が止まった気がした。 「やだああー、青春知らないの?中学生なのに!」 永元が自転車から飛び降りて、俺の背中をバンバンたたく。 「ふげっ。」 自転車について上り坂を全力疾走した後に、足の遅い奴が背中をたたかれたらどうなるか? おそらく、俺のように地面に倒れこむだろう。 「きゃっ、汚い!やめてよ!」 あわてて俺の体をおこそうとしながら、永元が言った。 「それで、何で急にそんなこと聞いたの?」 「いや、俺だって言葉くらい聞いたことはあるぜ。でも、なんかさ……。青春って感じがするって聞いて、思ったんだ。俺の青春はなんなんだろうって。そもそもみんな青春青春っていってるけど、青春ってはっきり言ってなんなんだ?学生にしか青春ってこないのか?青い春って書くのはどうしてだ?人によって青春の種類が違うのはどうしてだ?っていうか、どういう行動を青春って呼ぶんだ?」 「それは……。」 「考えてみたら、確かに青春なんて分からないことだらけだな。」 前久保が頭の後ろで腕を組む。 「青春って、なんなんだろうな?」 「さあ……。」 三人ともだまりこんだまま、沈黙。 しばらく無言の時間が過ぎた後、永元がハッと顔をあげた。 「あー、いけない!もう帰らないと。じゃあねっ。」 自分から一緒に帰ろうと申し出たくせにあっという間に自転車にまたがって、永元はヒラリと手を振った。 「また明日、廊下でねー。」 そのまますごいスピードで自転車のペダルをこぐ。 風のように走り出した自転車は、あっという間に見えなくなった。 ぼうぜんと見つめる前久保の口が、開く。 「そういえばさ。」 「どうした?」 「永元の自転車、ピンクだったよな。銀色や白の自転車が多かったのに。」 「そっちか!っていうか、知ったことじゃねーよ!」 「そっちかって、何をいうと思ってたんだ?」 「青春について話すのかと思った、俺は。」 「そうか。まあ確かに気になるな……。でもだとしたら、そういえばってつなぎ言葉はおかしくないか?」 「ダメだ、お手上げ。国語はだめ。」 「何言ってんだよ、お前は国語に限らず全教科苦手だろ。」 「はっはっは、そりゃそうだ。でもそれはお前もだろ。」 「はっはっは、そりゃそうだ。」 「……重ねるなよ。」 「悪い悪い。おっと、もうこんな時間か。じゃあ俺も帰るな、ぐっばーい。」 英語をはじめ全教科が苦手というだけある見事なひらがな英語であいさつを口にし、前久保も走り去っていった。 俺はぼそりとツッコみをつぶやく。 「…………時計も持ってないくせに、『こんな時間か』って……。何で時間がわかるんだよ。」 そして、一、二の、三、と自分で掛け声をかけ、 「GO!」 自分の家に向けてかけだした。
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