青春という言葉

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「またやったなー、二人とも。」 廊下にいると、隣の教室から女の子が一人出てきて、ケラケラと笑った。 見覚えのある、黒くしっとりとした長い髪と、まつ毛。 パッチリとした大きな瞳は楽しそうな光と笑いを浮かべている。 色も白く、すらりと背が高くてかなりの美少女だ。 「よう、永元(ながもと)。」 前久保がシュタッと片手をあげて挨拶する。 「そっちこそ、また立たされてんのか?懲りねーな―、お前も。」 永元、フルネーム永元 大海(ひろみ)は、学年一の美少女にしてクラスのトップアイドルだと早くも噂されているほど可愛い子だ。 ただ性格は面白いことや楽しいことが大好きなマイペースの面倒くさがり屋で、ふざけたり遊びまわったりすることに関してはお手の物だ。 そのため今のように、廊下に立たされることがよくある。 学校が同じということと廊下に立つたび話すこともあり、俺、前久保、永元の三人は仲良し三人組のような関係になっていた。 しかし、廊下に立たされた時「また廊下?」「そっちこそ。」のような軽い会話を交わし、朝や昼にすれ違ったときなどチラッと挨拶をするくらいのつきあいだ。 あまり一緒にいることはなく中学ではクラスも離れてしまったが、まだ幼かったころは公園で騒いだり俺の家に残り二人(つまり前久保と永元)で押しかけたりしたものだ。 前久保の家にいけないのにはちょっとした家庭の事情があり、俺や永元はそれをちゃんとわかっている。 そもそも永元という生徒は気さくな人間で、男子の家に遊びに行くというのに少しもいい子っぽくしたり友達に自慢したりしない。 昔からの友達と、「ちょっとそこで遊んでくる」といった感覚でやってくるのだ。 まあ、堅苦しく気まずい雰囲気になるよりはこういう反応のほうが気楽でいいのだが。 しかし外見でいえば、三人並ぶとかなり不釣り合いに見える。 典型的な「デコボコトリオ」というやつだ。 俺は敵意のこもった反抗的な目つきをしているくせに制服は第一ボタンまでしっかり留めて(蛇みたいだと言われる目をのぞけば)普通の顔をしている。 その横を歩く前久保は、長く伸びた髪をしっかり染めて、学生カバンの代わりにゲーム機とイヤホンとスマホの三点セットを持ち(たまに漫画も持ってきたりする)、制服の代わりにヨレヨレになったシャツやジャージとだぼだぼのズボンを身に着けている。 で、その俺たちと一緒に並んで歩く唯一の女の子が、人形のような整った顔や背が高くすっきりした体つき、話しやすい人気者の性格で有名なアイドルデビューを(まあ大げさで極端な噂の話とはいえ)ささやかれるほどの美少女ときている。 三人が横並びに歩くだけで奇妙な視線を投げかけられるのは、まあ当たり前と言えば当たり前だ。 不良としか言いようのない格好の男子と普通の顔で真面目そうな服装なのに目つきだけがやたらと鋭い男子、誰もが振り向く可愛い女の子。 仲良くなってしばらくは、根も葉もない噂やいろいろな憶測が学校中を飛び交ったものだ。   休み時間におしゃべりをしたり放課後に遊ぶことも少なくなって、周りも別の話題を見つけ、やっと噂されるのが終ったかと思ったら中学校の入学と同時に別の小学校出身の奴らも大勢やってきて、また他の噂がたつ。 中には三角関係の恋人だとか、似ていないけど実は三つ子なんだとか言ったようなものもあるから、困ってしまう。 前久保は聞き流しているし永元は軽く微笑んで聞き流したり「な~い~しょ。みんなには教えな~い。」とハートマークをつけて言えばすむらしい。 結局気にしているのは俺だけのような気もするが、気になるものは気になる。
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