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「そっちは何で立たされたんだー?」
今までの事を思い返している俺を現実世界に引き戻してくれたのは、前久保ののんびりした口調の永元に対する質問だった。
「べっつにー。何だっていいじゃん。」
永元がそう言って、いつもの如く能天気かつ無防備なあどけない笑顔を見せながら片手をヒラヒラと振って前久保の質問を吹き飛ばした。
その様子が何とも絵になる。
まったく、美形は得だというのは本当だと、俺はつくづく思った。
「チャイムが鳴ってもおしゃべりして、騒いでたの。先生がべっとりした声で注意してきたんだけど……。」
「ちょっと待て。」
べっとりした声というところが引っ掛かり、俺は永元に聞いた。
「お前の担任も男か?」
「そうだけど。」
「注意するとき、目がハートマークになってなかったか?」
「え?」
きょとんとする永元。
「何で?」
不思議そうに聞き返してきた。
男子生徒にモテるのは、永元のこういうところだ。
「……いや、分かってないんならいい。それで?」
「うん、授業よりも話す方がいいやと思ってね。聞こえてないフリして無視しての。」
「で、ずっと喋ってたのか?」
「そうだよ。でもみんな先生に声かけられた後で席に戻っちゃったから、私だけでふざけてたの。」
「……悲しいな。」
うん、確かに悲しい。
永元が一人で笑い転げながらふざけているところを想像して、俺は思わず涙ぐみそうになった。
「で?」
「そうしたら先生がまた注意したのよ。」
「次は言うこと聞いたのか?」
「ううん、聞いてたら廊下に立たされるわけないでしょ。私は気にせず続けてたよ。そしたら五回目くらいでついにキレちゃって、それで……。」
「こらあ!!!」
担任が教室が飛び出てきて、怒鳴り声で永元の話をさえぎった。
やっばー、見つかった!
たぶん、残り二人も同じことを考えていただろうと思う。
聞かなかったけど……。
「廊下に立たされて喋る馬鹿がどこにいるんだ!」
……ここにいるんだけど。
「反省しようという気持ちはないのか!?この後職員室に来なさい!わかったね!?」
ドスドスと音をたてるように、担任は教室に戻っていった。
「あっちゃー、叱られた。」
笑顔で永元が言う。
「職員室って、どこだっけ?」
キョトンとしているのは前久保。
二人とも、困ったもんだ。
ま、職員室に呼び出しを食らうなんて日常茶飯事だけどさ。
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