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「おーい、おっそいよーー!二人とも、何やってたの?」
自転車にまたがりブンブン手を振っているのは、永元だ。
一斉に周りから注目される。
少し理由を考えて、三秒でわかった。
目つきの悪い俺と、その隣を歩いている前久保のせいだ。
しかし、今までここに歩いてきていても、退かれはしたけど注目されることはなかった。
しかし今、永元に声をかけられた瞬間注目を浴びている。
このわけは?
少し理由を考えて、五秒でわかった。
永元が可愛いからだ。
昨日の入学式からまだ二日もたっていないのに、すでに校内のアイドルになっているらしい永元。
その永元が手を振ったら、相手が誰なのか気になるのは当然だ。
「おー、悪い!」
片手をあげる前久保。
さらに注目度が増す。
人だかりもできてきて、興味本意にのぞいたやつは、俺達三人という実に奇妙な組み合わせを見て首をひねったり、激しく首を横に振ったり、口をポカンとあけて驚いたりしている。
「何でこんなにおそいわけ?約束の時間思いっきりオーバーしてんじゃん。」
「約束の時間って、一緒に帰るとは言われたけど何時に集合かまでは言われてねーぞ。」
「あれ、そうだっけ?」
「忘れっぽいなー。じゃあ行こうか……って、え?」
前久保が硬直した。
急にどうしたんだろう?
「お前……ひょっとしてさー……。」
「何モゴモゴ言ってんの?早くしてよ。」
「あのー……。」
「早く!おいてくよ!」
「もしかして、自転車通学?」
前久保が硬直した理由に気づいて、俺も固まった。
「そうだけど、それがどうしたの?自転車通学なんて中学生では当たり前でしょ?」
いや、当たり前じゃない。
その証拠に……。
「あのさ、永元。俺も吉口も、徒歩通学なんだけど……。」
そう、俺と前久保の二人は歩いて学校に通っている。
永元は一瞬固まったあと、すぐに笑顔になって手をヒラヒラ振った。
「いいじゃん、そんなの大した問題じゃないしさ。」
いや、俺たちにとってはすごく大した問題なんだけど。
「一緒に帰るって言ったよね?今更ナシなんてこと言い出さないでしょ?」
ケラケラ笑いながらの言葉だけど、目が怖い。
「いや!言わないけど……。」
すでに周りは、同情の視線を向けている。
「あっ、そうだ!俺と吉口は自転車の横を走って帰るっていうのはどうだ?」
嫌な予感は当たり、最悪の展開になってしまった。
そうだも何もそれ以外に一緒に帰る方法はないが、自転車の横を走るなんて流石にきつい。
ところが永元は、
「そうね、そうしてよ。」
と乗り気だ。
自転車に乗るから、走る側の気持ちが分からないのか?
「自転車と並んで走るなんて面白そうだし、やろうぜ吉口。」
ふざけるな。
「そうよ、走るのは得意でしょ?」
「走るのが得意って……誰から聞いた?」
「前久保君。」
俺は思いっきり前久保をにらんだ。
100メートルのタイムが平均より遅かったのを知ってるくせに、妙なこと言いふらしやがっって……。
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