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1.ちょっかい
「先輩!」
ドアが開くなりのリオのうるさい声に、しかめっ面のハルが振り向いた。
「お前がそう呼ぶ時は碌なことが無い時だよな」
「そりゃないよ! いつだって僕は先輩を敬ってるよ」
なんだ、その『嘘でごさいます』という、朗らかな笑顔は。
「で?」
「今夜、ヒマ?」
「そんなわけ無いだろう」
「またレポート? だいたい提出義務もないレポート、どうして年中書いてるの?」
「提出しないから学ぶ必要が無いというもんじゃないだろう? 学問って」「相変わらず堅いんだから」
いつもの返事だから驚きもしない。
「お前の話はどうせ女の子絡みだろ」
「当たり!! ね! 興味湧いたでしょ!」
「1人でそう思ってろよ」
ハルは書物に目を戻した。すでに後輩の話を聞くつもりがない。後ろでは出かける支度をしているのか、クローゼットを開ける音がしている。それがまたやけにうるさい。
(こいつの中には『静かに』って言葉が無いんだ)
諦めのため息が落ちる。
「先輩、冷たいなぁ」
いきなり書物の上に自分のシャツが被さった。
「何するんだ!」
振り向くと、彼は裸の背を向けてシャツを羽織るところだった。相変わらずの無駄の無い筋肉の動き。
「先輩さ、脳に虫湧かない? 勉強ばっかりが人生なんて、悲壮過ぎるよ」
こちらを向いた顔にはなんの苦労もする気は無いという笑いが浮かんでる。シャツを畳んで脇にどかした。「行こうよ! 先輩連れて来るって言っちゃったんだ」ハルは椅子ごとゆっくり後輩の方に体を向けた。
「リオ。何度言ったら分かるんだ? 俺はそういうのに興味無いんだよ」
「それ、絶対に男として壊れてるよ。……ゲイ?」
バカバカしくて返事をする気も起きない。
「僕を夜中に襲わないでいただきたい!」
ハルはそのバカッ丁寧な口調に逆に吹き出した。リオは(やった!!)とガッツポーズだ。滅多にこんな風にハルを笑わせることが出来ない。
ここんところ、とにかくハルを勉強からいや、研究から引きずり出したくてたまらないリオ。
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