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「俺にはこれしか無いんだよ。考古学に出会って今はそれが自分の全てなんだ」
「ねぇ、例えば恋とかしたこと無い?」
ハルは腕時計に目をやろうとして手を下した。目を見張った。時計をもぎ取って部屋の隅に投げる。ガチャン! と砕けた音がした。こんな感情的なハルを見るのは初めてだ。
「あのな、聞いてもらっていいか?」
普段とあまりにも違うハルに驚くあまり、何回か頷いた。さっきのタオルを顔に当ててぽつりとハルが呟いた。
「ジュディ」
「ジュディ?」
「俺が昔付き合った女の子だよ」
そんな子がいたのにびっくりだ。『恋したこと無いのか?』そう聞きはしたものの、正直あるとは思わなかった。
(この堅物が、恋? 付き合う? 抱き合う? ベッドを……)
そこまで考えて、なぜか顔が熱くなった。
「20の頃かな。3つ年上の子だった」
(と……年上ーー!? 3つぅ!? それ、<子>じゃないだろ!)
心の中で変な突っ込みをしているのは自覚しているが、止まらない。
「それで? その……どこまでいったの?」
(なんでこんなこと聞いてんだよーー!)
自分にまで突っ込んでいる。
「……キスした……」
ほのかに赤い顔。
「キ」
言葉が止まる。そこから一気にまくしたてた。
「キスって、それさ! つき合ってるって言うの? それだけ? それしかしてないの?」
(何、確認してんだよ!)
驚いたような顔のハル。
「お前……20になったばかりだぞ? それ以上何しろって言うんだ?」
(この人はアホじゃなかろうか)
「あのね、『つき合った』っていうのは、ベッドにもつれ込んで互いに剥がし合って、感じ合って、目を閉じて、蕩けて、朝にはお互いに見つめ合って……」
(僕は朝からナニを言ってるんだ? 何でこんなレクチャーしてんだよ!)
言いながら己の頭を疑ってしまう。
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