1.ちょっかい

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 元々、研究肌のハルは1人を好み、学生寮のこの一番端の部屋を自分1人にあてがわれたことに感謝していた。それが約11ヶ月前の話。  奥まった2階の部屋。角部屋だから正面と右側、つまり東と南に窓があり、他の部屋よりも少し大きめ。テレビも要らずただクラシックのフィンランディアや、ピアノ曲ではラフマニノフ、ラヴェル、ショパンといった曲を中心にかけっ放しにしている。  後はパソコンを開いて、本を開いて、ノートを開いてペンを持つ。それだけでハルの世界は成り立っていた。  なのに4ヶ月前にこの厄介な後輩が『他に空きが無いから』という理由で相部屋となったわけ。断れるわけもなく、ハルはそれを受け入れた。  初め(それも3日くらい)は、大人しくて好青年の見本みたいだったリオ。あっという間に本性(いや、悪いやつじゃない)を剥き出しにして、その『先輩!』攻撃が始まった。  どこにいても姿を見かけると駆け寄ってくるリオ。何度かハルは走って逃げた。すると遠くからデカい声が飛んでくる。 「ハル! 僕の相棒のハル!!」 溜まったもんじゃない。  実はリオは結構優秀な奨学生。数学と物理。2つの分野に秀でていて他の勉学にも万能な口。飛び級で大学2年になったが、3年のハルの2つ年下。  それがそうは見えないのが、ハルの教授の目に留まった。  閉じ籠りがちの家族を持たないハルをお気に入りの教授は、その寮の片隅に埋もれているハルが心配で堪らなかった。  2名の転入生が入寮を希望していると聞き、舎監に頼み込んで面接に同席した。空いているのはハルが入っている部屋しか無い。  片方は比較的真面目そうな3年生。もう片方は、背の高い目をくりくりとさせる快活な2年生。教授は一発でリオに決めた。気取りの無い明るい苦学生はハルの生活を変えてくれるだろう。  亡くした息子の面影をわずかに持つひっそりとしたハルをなんとかしてやりたかった教授。リオの入寮費用を肩代わりしてやるからと、彼にある話を持ちかけた。 『ハルをその年齢に相応しい健康的な若者にしてやってくれ』   
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