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計画はこうだ。普段、一緒に飲みに行ってもハルはあまり飲まない。ビールを1本飲むと、その白い頬がほんのり赤くなる。
(絶対、酒に弱い! 今日はうんと飲ませてやる)
酔ってしまえばハルの理性も崩れていくだろう。リオは結構酒が強い。だから飲み比べに持ち込む気だった。
だが、それは見事に引っくり返された。白い頬が赤くなるだけだ。その後はまるで水のように飲んだ。あっ気にとられるほど、飲む。
(また、この人の違う顔だ)
いったいどれだけの顔を持っているんだろう。謎だ。謎だらけのきれいなハル。
(きれいだなあ……)
いつの間にか、その赤い頬に見とれていた。そばにいる女の子とおんなじ顔つきになっている自分に気付かない。
(酔ってるはずなんだ)
けれど、隣にいる女の子に話しかけるハルはいつもと変わらぬ紳士っぷり。(きれいだなあ……)
その言葉が頭の中でとぐろを巻いている。自分に話しかけていた女の子は答えないリオに愛想をつかしてとっととどこかに行ってしまった。それにも気付かないで、穴のあくほどハルを見つめているリオ。
その視線に気がついたハルは、ふっと優しく微笑んでくれた。
(微笑んだ? 見つめ返してくれた? 僕を見てる?)
もう、リオは本来の目的をすっかり忘れてる。
「帰ろうか」
腕を抱きかかえられて、リオはよろめいて立った。
「ずいぶん酔ってるじゃないか」
「ハルは?」
「酔ってる」
しっかりと答えたハルはとても酔ってるようには見えない。
「時計を見るのを忘れてしまった。今夜は楽しかったよ、リオ」
そう言って肩にリオを担いで歩くハルの足はしっかりしていた。
部屋に入った。
「シャワー、先に浴びる?」
振り返って驚いた。ハルは、ベッドに倒れて寝ていた。
(え? ホントに酔ってたの?)
そばに行ってハルを揺り動かした。
「ねぇ、シャワーは?」
ぴくりとも動かない。
「ねぇ。いたずらしちゃうよ?」
昼間自分が言った言葉を思い出す。
『僕を夜中に襲わないでいただきたい』
(襲われたいのかな…… 襲いたいのかな……)
リオも充分酔っている。
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