ピヨかま!

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◆ さて当日になり、いよいよカーニバルに出発である。 このカーニバルの語源は、ラテン語のカルレム・レバーレ、肉を断つという意味である。 キリスト教では、復活祭までの40日間を四旬節と呼ぶ。 この日を境に肉を断ち、世俗的な楽しみを控えるというわけだ。 そのため、カーニバルは四旬節を前に大いに騒ぎ、遊び尽くそうと生まれた祭りなのである。 「すごい人出よねぇ!みんな着飾って素敵なドレス姿がたくさん!!」 嫁は肩にピヨちゃんを止まらせたヘルバを連れて、下宿を早めに出た。 2月末のヴェネツィアの空は、雪こそ降っていないが青空とはほど遠い。 上空は見渡す限り白い雲に覆われ、曇天からは鈍い日の光が差す。 その上に風も冷たい。 それにも関わらず、嫁たちの気分は浮き浮きと最高潮であった。 「クラーラさんのドレスも、とても素敵です」 「ピヨピヨ!」 ピンク色のふわふわドレスのお姫様ヘルバに、黒騎士ピヨちゃんも元気いっぱいに同意した。 「あ、あら!2人とも本当にそう思う?いいのよ、お世辞なんか言わないで」 そう言いつつも、嫁もまんざらではない。 何せ彼女の衣装は本人も納得の、渾身の出来栄えだったからである。 ふさふさの羽根飾りの付いた帽子に、フリルのたっぷり付いた真っ赤なドレス。 帽子を含めて仮面を除けば、全身を赤でコーディネート。 ただし、フリルはすべて純白の縁取りという懲りようであった。 「赤い海を治める、海の女王様みたいです」 「まあ!この白い縁取りが、波をイメージしたってわかるの!?ヴェネツィアは海運の国ですものね!さすが、私のヘルバだわ!もう!可愛い上に本当にお利口さんなんだから!!」 自身の秘めたる意匠を理解してもらい、感極まった嫁はひざまずくと、ヘルバをぎゅっと抱きしめた。 一方、少女の肩に止まっているピヨちゃんは、 「何だか、赤潮みたいなお洋服だね」 と言ったが、ヘルバはこの感想だけは嫁に通訳しなかった。 「さあっ!カルネヴァーレを満喫しに、サン・マルコ広場に繰り出すわよ!!」 「はい!」 「ピヨピヨピヨ!」 嫁はカーニバルをイタリア語で発音すると、決意も新たに勢いよく立ち上がる。 そしてヘルバの手を引いてドレスの裾を翻し、石畳を颯爽と歩いていった。
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