Prologue:world.execute(me);

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 とはいえ、私達レプリカントにとってそれは重要な点ではない。人間として認められる事を少なくとも私自身は願っていない。  それは『メタトロン』と呼ばれる我々レプリカント達の中心地でも数値として現れている。  これは既存のサーバーとは異なり、実際に地球のどこかに管理筐体があり、通信を行っているわけではない。  いわば私達一つひとつがサーバーであり、各々が演算処理を分担し管理する、蜘蛛の巣のように絡み合った巨大なネットワークポータルだ。  ここでは日々の行動原則、つまり人間で言う法律のようなプロトコルが随時更新されるなど、レプリカント側からは触れる事のできない「不可侵領域」と、各レプリカントのライフデータを保存したり生活に置いて発生した不具合(グリッチ)やトラブルシューティングを投稿する「相互連携領域」とが存在する。  ある特殊な環境において発生する、思考プロセスのハングアップ。特定の条件下において高確率で発生する、基礎人格レシピの偏向。  そういった報告がほぼ毎日投稿され、はじめはレプリカント同士で解決を試みる。出来なかった場合には本社開発部へと送信する。  こうする事で人間という有限のリソースにかかる負荷を軽減し、またレプリカント達の迅速かつ正確な自己診断が可能となる。  かつて人間は、苦難に直面したとき神に祈りを捧げた。世界中で次々行われる要望に対し、神はどうやってそれを処理していたのだろうか。  私個人は、神が一つであるとは到底思えない。私達の創造主たる人間がたった一人で我々を生み出したわけではないように、人間を生み出した神もまた、たったひとつの存在では成し得ないと考える。  考える、という行為はとても重要だ。ただ朝食のエッグトーストを焼き上げるまでの数分間すら、私にとっては自己診断と思考プログラムの改良を行う良い休息なのだ。 「おまたせ致しました、旦那様」  彼の笑みを見るまでもなく、私は確信していた。彼が望んでいるものは何だって、私には分かるのだから。
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