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師長からの電話。
『もしもし豪君、久し振り。元気にしてる? はるちゃん、大きくなったでしょう。――』
俺の元職場、大学病院ICU室の師長から突然の電話だった。
師長は俺の元直続の上司で、めちゃくちゃ怖い女性だがめちゃくちゃ信頼できる人間だ。新卒で配属されたICU室で看護師としての俺を、厳しくも一人前になるまで陰日向となって支えてくれた。
そして紆余曲折の末、俺のパートナーになってくれた医師、ICU室長の彼(健)と正面切って議論し意見できる数少ない人物でもある。年の頃は50前後だろうか――いつも溌剌としているから、年齢不詳だ。
電話の内容は、『先生の様子がおかしいから早く帰らせた、後は頼む』というものだった。
理由を聞いたところによると『救急で運ばれてきた女性を助けられなかった事』――搬送されてきた時には、瀕死の状態で助かる見込みは少なく、緊急オペで一命は取り留めたが時間の問題だった。乳飲み子を連れた夫との面会後、意識を取り戻すことなく静かに息を引き取ったという。
『おそらく、自分自身の経験とオーバーラップしちゃったのではないかな』
師長は小さな声で、辛そうに付け加えた。
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