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読み聞かせ。
何処かで時間を潰したのか、遅くなってから帰宅した彼は「食欲がないから夕食は要らない」というので、先に入浴をするように促した。
俺ははるを寝かしつける為に、彼女の枕元で絵本を読み聞かせている。
この絵本は俺の妹が初めて自分で作り、はるにプレゼントしてくれたもので、今日宅急便で届いたばかりだ。俺の妹の子供の頃からの夢は、絵本作家になること。その夢に向かって、現在は美術系の大学で学んでいる。
「はやくー! よんでよんで!」
「ああ。じゃあ読むぞ」
この物語は実際に俺の母親の、ある言動を元に作られている――ああ。懐かしい。
「ねえ、おにいちゃん。そのすーぷ、はるもおおきくなったらつくる! そんで、おにいちゃんやぱぱにのませてあげるね?」
「そうか? じゃあ、俺も作り方を勉強しとくな。さあ、はる、明日も早いんだから、さっさと寝ろよ」
「――ん……」
掛け布団の上から軽くトントンと、はるの身体をリズミカルに叩いてやると、次第に目がトロンと閉じ、可愛い寝息がすうすうと聞こえてくる。ここで「よし寝たな!」などと離れてしまえば、すぐに気配を察したはるがもぞもぞと起き出してしまう。眠った事を確認してからあと5分程度、同じようにトントンを続ける。すると、本格的な寝息を立てはじめる。そこで、はじめて俺は部屋の温度を確認し、問題が無ければ部屋の電気を消して小さな間接照明の明かりに切替える。
「さあ、次は先生の番だ」
先生の心情を慮ると、俺の心までもが締め付けられるようだ――
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