20人が本棚に入れています
本棚に追加
入院。
あれからの彼は、これまで以上に無理をし仕事に打ち込んでいた。
そして、病院で寝泊まりすることが多くなった――『ひとつでも多くの命を救いたい』という思いに憑りつかれたように。
様子は師長が時折寄越すメールと、着替えや差し入れを届ける際に垣間見ることが出来た。一見、いつも通りの穏やかな先生だが、日に日に目が落ち窪み、やつれてきている。
そんな折、師長から『入院させたわよ! あのバカ』と、吐き捨てる様な口調で電話が入った。高熱を出したらしい。
驚いた俺は、はるを連れて慌てて病院に向かった。すると、ベッドサイドには交代で休憩に入ったという師長が、怖い顔で腕組みをして座っていた。
「この期に及んで『仕事する』なんて言い出したから、先生に頼んで点滴に眠れる薬を入れて貰ったところよ。ぐっすり眠ってるけど、心配は要らないわ」
そう言って、病名は『過労』で栄養状態が良くないこと。脱水もあって熱発したのだろうことを説明してくれた。一頻り話した後は、「はるちゃ~ん! 大きくなって、お姉ちゃんになたわねえ」と頬擦りし「おばちゃんと、お菓子買いに行きましょう」そう言うと、さっさとはるを売店に連れて行ってしまった。
点滴に繋がれた彼は、眠っているのに、なお眉間に皺を寄せている。
「先生――俺じゃ、力になれませんか……?」
先程まで師長が座っていた、まだぬくもりの残る椅子に腰かけた豪は、寝息も立てずにひたすら眠らされている青白い顔色の健に向かって、静かに語り掛けた。
最初のコメントを投稿しよう!