退院の日。

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退院の日。

「げんきになぁれ!」 「おッ! はる、上手いぞ! その調子だ」  今日、やっと主治医のお許しが出た彼が退院する。  師長の睨みが効いたと見えて、退院後、二日間は自宅で過ごす事になった。当の本人は、不満顔だが師長の逆鱗に触れるとあとが大変なことは、周知の事実らしく、不承不承、従うことにしたようだ。  俺には退院した先生に是非、食べてもらいたい料理があった。  ラッキーなことに、輸入食材を扱っている店で丁度旬のフレッシュビーツが手に入ったし、レシピは母親からメールで教わった。  鍋の中でぐつぐつ煮ているそれを見たはる(・・)は、絵本の影響もあって嬉しそうだ。 「ぱぱ、これたべたらぜったいげんきになるよね?」 「ああ。絶対なれるぞ! はるのまじない(・・・・)付きだからな」 「うん! はるもあじみ(・・・)したい」  俺が、汁を小皿に入れてフーフーと冷ましながら味見をしていると、はるもそれをしたいと言うので、同じようにフーフーして未だ薄味の汁を飲ませてやった。 「う~ん……」  子供は素直だ。もう少し煮込んだら、味も安定するだろう――    今夜は、ロシア料理のボルシチにした。昨夜から牛肉を柔らかくなるまで煮込んでおいた。その汁の中に、ビーツやたくさんの野菜を入れてぐつぐつと煮込む。あとは、味を調えれば出来上がりだ。食べる時には、その上にサワークリームを乗せて出す。 「ただいま」  帰ってきた! はるが玄関に向かって、バタバタと走り出す。俺も鍋の蓋をずらして乗せてから、火を弱くして玄関に向かった。 「ぱぱー、おかえりなさい」 「先生、おかえりなさい」
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