見守っていよう。

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見守っていよう。

「先生、お帰りなさい。すみません、はるを寝かしつけてました。お腹空いてませんか?」  本当は、「何かあったの?」と訊きたい。しかし、そんな不躾な質問をぶつけるほど、俺も子供じゃない。 「ありがとう、豪。今日は疲れたから、先に寝かせてもらうよ」 「はい。あの……」 「うん? どうした?」 「あ、いや……。風呂から上がってから、水分摂りましたか?」  ついつい、どうでもいいことを訊いた俺に「ああ。冷蔵庫の麦茶を飲んだから大丈夫だよ、おやすみ」と先生は優しく答え、季節に応じて取り換えたばかりの薄い肌掛け布団に頭から潜り込んでしまった。  翌朝は「コーヒーだけもらおうかな」と言うので、カフェオレにして出したが、時間をかけて半分ほど飲み、仕事に出掛けて行った。  結局、何も訊くことが出来なかったが、俺はそれで良いと思っていた。  無理矢理訊き出してしまい、本来寛げるはずの家庭でまで辛い思いを引き摺らせたくないと思っていたからだ。  今は見守っていよう――そう、自分に言い聞かせる。
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